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不動産登記2023年05月10日 不動産の共有、社会問題化と民法改正による新しい仕組みの構築 発刊によせて執筆者より 執筆者:渡辺晋

 安全な経済活動のための法制度は、物から得られる便益を複数の人に配分するためのルールの構築によって成り立ちます。近代法のもとでは、所有権絶対の原則とともに、物からの便益を複数の人に配分する仕組みとして、一つの物に対して、複数の人に等しく排他的絶対的な支配を認める共同所有という法形式が広く認められており、民法のもとでも「共有」として定着しています。

 共有は、複数の法主体がそれぞれ単独では持つことができない大きさの権利を保持したうえで、共に物を使用・管理するための法形式としては便利かつ合理的です。しかるに、共有者のうちに共有物の使用・管理に関心をもたない者がいる場合や、共有者間で考え方に齟齬が生じた場合には、深刻な弊害が生じてしまいます。

 ところで、わが国では、所有者が明らかではない土地が、2016年の時点で410万haに及んでおり(九州本島の土地面積を上回る)、このまま策を講じなければ、さらに2040年には720万haに拡大すると報告されています(北海道本島の土地面積に迫る)。土地の所有者が不明であることは、土地の円滑で適正な利用を妨げ、治安や衛生上の問題を引き起こします。社会経済的な観点からみると、2016年単年で1,800億円の損失が生まれ、加えて、2040年までに約6兆円の損失が累積する可能性があるとの試算もあります(一般財団法人国土計画協会、平成29年12月13日所有者不明土地問題研究会報告書)。

 所有者不明土地が生じるのは、相続して相続人の共有となった土地が、無価値であったり、遠方に存在したりするため、共同相続人の全部又は一部が共有土地の使用・管理に関心を有していないことが縁由となっています。そのため、令和3年4月に法改正がなされ、共有物の利用促進、共有関係の円滑な解消、所有者不明土地の発生抑制という3つの観点から、共有と相続のルールが見直されました。

 第1の共有物の利用促進のためには、所在等不明共有者を除く共有者に、所在等不明共有者の持分を取得させ又はその持分譲渡権限を付与する裁判の仕組み(民262の2・262の3)、及び共有物の変更や管理を行うことを認める裁判の仕組み(民251②)が新設されました。また、日常的な管理行為を任せておく管理者の選任手続や権限も条文に明記され(民251①・252の2①)、軽微変更は、共有者全員の承諾がなくても、共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することができるという改正もなされています(民251①括弧書)。従来共有になっていることがデッドロックになり、不動産の適正な管理や有効な利用が阻害されていましたが、これらの制度を活用することによって状況の打開が可能となっています。

 第2の共有関係の円滑な解消のためには、共有物分割請求の訴え提起の定めを明確化し、加えてこれまで認められていなかった遺産共有における共有物分割請求の訴えを、相続開始後10年経過した場合は認めることとしました(民258・258の2②)。これにより、裁判手続による共有関係解消のハードルが下げられています。

 第3の所有者不明土地の発生抑制のためには、相続があっても相続登記がなされないことから所有者不明土地が増大したことに鑑み、相続登記の申請及び住所等変更登記の申請が義務化されました(不登76の2・76の5。相続登記義務化は令和6年4月までに、住所等変更登記義務化は令和8年4月までに、それぞれ施行)。さらに、相続土地国庫帰属法が制定され、相続した土地の所有権や共有持分を取得した者が、法務大臣に申請し、その土地を国庫に帰属させることもできるようになっています。

 なお、共有と相続のルールが大きく見直されたものの、ルール変更は多岐にわたっており、いまだ新たなルールが周知されているとはいえません。共有不動産を取り扱う専門家のために、「フローチャートで分かる 不動産の共有関係解消マニュアル」(令和5年4月発行)及び「不動産の共有関係 解消の実務-Q&Aとケース・スタディ-」(令和3年11月発行)(いずれも、新日本法規出版)において、共有関係の解消に関する情報をとりまとめているので、ご参照いただきたいと思います。

発刊によせて執筆者より 全68記事

  1. 相続土地国庫帰属制度の利活用促進の一助になれば
  2. 患者と医療従事者とのより望ましい関係の構築を願って
  3. 遺言・遺産分割による財産移転の多様化と課税問題
  4. 専門職後見人の後見業務
  5. 不動産の共有、社会問題化と民法改正による新しい仕組みの構築
  6. 登記手続の周知
  7. 育児・介護休業制度に対する職場の意識改革
  8. メンタルヘルスはベタなテーマかもしれないけれど
  9. 持続可能な雇用・SDGsな労使関係
  10. 自動車産業における100年に1度の大変革
  11. 中小企業の事業承継の現状と士業間の連携
  12. 消費税法に係る近年の改正について
  13. コーポレートガバナンスと2つのインセンティブ
  14. 労働者の健康を重視した企業経営
  15. 被害者の自殺と過失相殺
  16. <新型コロナウイルス>「株主総会運営に係るQ&A」と中小企業の株主総会
  17. 意外と使える限定承認
  18. 保育士・保育教諭が知っておきたい法改正~体罰禁止を明示した改正法について~
  19. 筆界と所有権界のミスマッチ
  20. 相続法改正と遺言
  21. 資格士業の幸せと矜持
  22. 労働基準法改正への対応等、ケアマネジャーに求められる対応は十分か
  23. 人身損害と物的損害の狭間
  24. <新債権法対応>契約実務における3つの失敗例
  25. 新債権法施行へのカウントダウン - 弁護士実務への影響 -
  26. 不動産売買における瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換の影響
  27. 子を巡る紛争の解決基準について
  28. 所有者不明土地問題の現象の一側面
  29. 相続法の大改正で何が変わるのか
  30. 民法改正による交通事故損害賠償業務への影響
  31. 「相手が不快に思えばハラスメント」の大罪
  32. 身体拘束をしないこと
  33. 合同会社の設立時にご検討いただきたい点
  34. 社会福祉法人のガバナンスが機能不全している実態が社会問題に
  35. 借地に関する民法改正
  36. ただの同棲なのか保護すべき事実婚なのか
  37. 農地相談についての雑感
  38. 瑕疵か契約不適合か 品確法は、改正民法に用語を合わせるべきである
  39. 外国人受入れ要件としての日本語能力の重要性
  40. 相続法改正の追加試案について
  41. 民法(債権法)改正
  42. 相続人不存在と不在者の話
  43. 財産分与の『2分の1ルール』を修正する事情について
  44. 離婚を引き金とする貧困問題と事情変更による養育費の変更
  45. 建物漏水事故の増加と漏水事故に関する終局的責任の帰趨
  46. 働き方改革は売上を犠牲にする?
  47. 次期会社法改正に向けた議論状況
  48. 消費者契約法改正と「クロレラチラシ配布差止等請求事件最高裁判決(最判H29.1.24) 」の及ぼす影響
  49. 「買主、注意せよ」から「売主、注意せよ」へ
  50. 障害福祉法制の展望
  51. 評価単位について
  52. 止まない「バイトテロ」
  53. 新行政不服審査法の施行について
  54. JR東海認知症事件最高裁判決について
  55. 不動産業界を変容させる三本の矢
  56. 経営支配権をめぐる紛争について
  57. マンションにおける管理規約
  58. 相続法の改正
  59. 消防予防行政の執行体制の足腰を強化することが必要
  60. 最近の地方議会の取組み
  61. 空き家 どうする?
  62. 個人情報保護法、10年ぶりの改正!
  63. 最近の事業承継・傾向と対策
  64. ネーム・アンド・シェイムで過重労働は防止できるのか
  65. 離婚認容基準の変化と解決の視点
  66. 境界をめぐって
  67. 妻の不倫相手の子に対しても養育費の支払義務がある?
  68. 個別労働紛争解決のためのアドバイス

執筆者

渡辺 晋わたなべ すすむ

弁護士

略歴・経歴

一橋大学卒業(昭和55年)
三菱地所勤務を経て、第一東京弁護士会に弁護士登録(平成4年)44期
著書として、「ビル事業判例の研究」(日本ビルヂング協会連合会・日本ビルヂング経営センター)、「建物賃貸借」、「新訂版 不動産取引における契約不適合責任と説明義務」(以上、大成出版社)、「これ以上やさしく書けない不動産の証券化」(PHP研究所)、「最新ビルマネジメントの法律実務」(ぎょうせい)、「最新借地借家法の解説」、「最新区分所有法の解説」(以上、住宅新報社)
論文として、「売買契約当事者への宅建業法の適用」(ジュリスト1508号)、「賃貸管理の公的資格に関する現状と課題」、「エリアマネジメントの実践に関する一考察」(以上、日本不動産学会誌)
(元)最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、マンション管理士試験委員
NPO法人大丸有エリアマネジメント協会 理事

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