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企業法務2020年09月23日 労働者の健康を重視した企業経営 発刊によせて執筆者より 執筆者:馬場三紀子

 労働力人口の減少は、職場におけるIT化やAIを使用したロボット化をすすめるなど企業だけでなく労働者のとりまく環境を大きく変化させました。
 また、新型コロナウイルス感染症の拡大は、テレワークの導入をすすめ、Zoom等の利用により会議や研修のあり方を変えています。
 「働き方の未来2035~一人ひとりが輝くために~報告書」(2016年8月「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会)の「3.5働く人と企業の関係」に、「働く人は仕事内容に応じて、一日のうちに働く時間を自由に選択するため、フルタイムで働いた人だけが正規の働き方という考え方が成立しなくなる。同様に…パートタイマーという分類も意味がないものになる。さらに兼業や副業…あるいは複業は当たり前のことになる。(中略)人は、一つの企業に「就社」するという意識は希薄になる。専門的な能力を身に着けて、専門的な仕事をするのが通常になるからだ。(中略)企業経営者も…企業の個性を磨き魅力を高め、働く個人から選ばれる企業を目指すことが求められるだろう。」とあります。
 技術革新が進展し、人にしかできない仕事が残る中でのこうした働き方、働かせ方の基盤になるのは、重要な経営資源である労働者の健康といえます。なぜなら、健全な労務を提供する心身ともに健康な労働者を確保し、その能力を最大限に活かすことで、企業は生産性の向上を実現し、長期的に収益を得ることが可能となるからです。また、労働者も知識や技術の習得を重ね、自分の能力を生かした労務の提供が継続的にできるよう、自身の健康状態に注意し自ら管理する自己保健に努めることが求められます。
 一方、平成30年の「労働安全衛生調査(実態調査)」(厚生労働省)の結果には労働者の強いストレスとなっていると感じる事柄の第3位に「対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)」とあり、「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」(平成29年3月厚生労働省)では従業員からの相談の多いテーマの1位は「パワーハラスメント」で2位が「メンタルヘルス」です。
 ハラスメント行為は、労働者にメンタルヘルス不調や自殺という重大な事態を引き起こす可能性があり、安全配慮義務違反を問われれば企業は多額の損害賠償訴訟を起こされます。その結果、レピュテーションリスクといった社会的評価や株価の低下、取引の中止に加え、ステークホルダーの企業価値評価を下げることになりかねません。
 米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)では、「健康職場」(Healthy Work Organization)という概念を用いたモデルを提唱しています。
 このモデルは、労働者の健康や満足感と組織の生産性の両立は可能であり、マネジメントの態様、組織風土、組織の方針といった組織の特性は、当該労働者の健康や満足感、組織の生産性に影響を与えるとしています。
 そこで、経営者は法令を遵守し、健康診断及び実施後の措置としての健康管理や職場環境を整備するとともに安全衛生教育を行う必要があります。また、一人一人の業務における評価を的確に行うことは、労働者のモチベーションを向上させ業務遂行能力を高めることにつながります。
 あわせて、産業医や保健師などを雇用することにより、専門知識を踏まえたメンタルヘルス不調者に対する助言や提案を得ることが可能となります。規模が大きくない企業は、都道府県に設置されている産業保健総合支援センターなどを積極的に活用することが有用です。
 また、企業と健保組合や協会けんぽが健康づくりに積極的に取り組むコラボヘルスは、労働者の健康増進が期待できます。
 今後、働き方が大きく変化する中で、経営者と労働者が互いに協力して生産性の向上と健康維持を図ることは、企業経営に不可欠なものと考えられます。そして、グローバルな競争力を支えるためには新しいものを生み出す優秀な人材の確保が必要であることから、労働者から選択される企業であるために経営者は労働者の健康を重視した組織的、継続的な経営戦略を推進することへ早期に転換することが強く求められるでしょう。

(2020年9月執筆)

発刊によせて執筆者より 全69記事

  1. 相続問題に効く100の処方箋
  2. 相続土地国庫帰属制度の利活用促進の一助になれば
  3. 患者と医療従事者とのより望ましい関係の構築を願って
  4. 遺言・遺産分割による財産移転の多様化と課税問題
  5. 専門職後見人の後見業務
  6. 不動産の共有、社会問題化と民法改正による新しい仕組みの構築
  7. 登記手続の周知
  8. 育児・介護休業制度に対する職場の意識改革
  9. メンタルヘルスはベタなテーマかもしれないけれど
  10. 持続可能な雇用・SDGsな労使関係
  11. 自動車産業における100年に1度の大変革
  12. 中小企業の事業承継の現状と士業間の連携
  13. 消費税法に係る近年の改正について
  14. コーポレートガバナンスと2つのインセンティブ
  15. 労働者の健康を重視した企業経営
  16. 被害者の自殺と過失相殺
  17. <新型コロナウイルス>「株主総会運営に係るQ&A」と中小企業の株主総会
  18. 意外と使える限定承認
  19. 保育士・保育教諭が知っておきたい法改正~体罰禁止を明示した改正法について~
  20. 筆界と所有権界のミスマッチ
  21. 相続法改正と遺言
  22. 資格士業の幸せと矜持
  23. 労働基準法改正への対応等、ケアマネジャーに求められる対応は十分か
  24. 人身損害と物的損害の狭間
  25. <新債権法対応>契約実務における3つの失敗例
  26. 新債権法施行へのカウントダウン - 弁護士実務への影響 -
  27. 不動産売買における瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換の影響
  28. 子を巡る紛争の解決基準について
  29. 所有者不明土地問題の現象の一側面
  30. 相続法の大改正で何が変わるのか
  31. 民法改正による交通事故損害賠償業務への影響
  32. 「相手が不快に思えばハラスメント」の大罪
  33. 身体拘束をしないこと
  34. 合同会社の設立時にご検討いただきたい点
  35. 社会福祉法人のガバナンスが機能不全している実態が社会問題に
  36. 借地に関する民法改正
  37. ただの同棲なのか保護すべき事実婚なのか
  38. 農地相談についての雑感
  39. 瑕疵か契約不適合か 品確法は、改正民法に用語を合わせるべきである
  40. 外国人受入れ要件としての日本語能力の重要性
  41. 相続法改正の追加試案について
  42. 民法(債権法)改正
  43. 相続人不存在と不在者の話
  44. 財産分与の『2分の1ルール』を修正する事情について
  45. 離婚を引き金とする貧困問題と事情変更による養育費の変更
  46. 建物漏水事故の増加と漏水事故に関する終局的責任の帰趨
  47. 働き方改革は売上を犠牲にする?
  48. 次期会社法改正に向けた議論状況
  49. 消費者契約法改正と「クロレラチラシ配布差止等請求事件最高裁判決(最判H29.1.24) 」の及ぼす影響
  50. 「買主、注意せよ」から「売主、注意せよ」へ
  51. 障害福祉法制の展望
  52. 評価単位について
  53. 止まない「バイトテロ」
  54. 新行政不服審査法の施行について
  55. JR東海認知症事件最高裁判決について
  56. 不動産業界を変容させる三本の矢
  57. 経営支配権をめぐる紛争について
  58. マンションにおける管理規約
  59. 相続法の改正
  60. 消防予防行政の執行体制の足腰を強化することが必要
  61. 最近の地方議会の取組み
  62. 空き家 どうする?
  63. 個人情報保護法、10年ぶりの改正!
  64. 最近の事業承継・傾向と対策
  65. ネーム・アンド・シェイムで過重労働は防止できるのか
  66. 離婚認容基準の変化と解決の視点
  67. 境界をめぐって
  68. 妻の不倫相手の子に対しても養育費の支払義務がある?
  69. 個別労働紛争解決のためのアドバイス

執筆者

馬場 三紀子ばば みきこ

特定社会保険労務士
元愛知労働局紛争調整委員
CFP®
内部監査士
愛知県ワーク・ライフ・バランス普及コンサルタント

略歴・経歴

1990年  馬場社会保険労務士事務所 開業
2007年  特定社会保険労務士 付記
2009年~ 社労士会労働紛争解決センター愛知 あっせん人
2016年~ 愛知県雇用労働相談センター 相談員

<主な著書>
「職場のトラブル相談ハンドブック」(共著 新日本法規出版)
「誰にもわかる社会生活六法」(共著 新日本法規出版)
「非正規社員をめぐるトラブル相談ハンドブック」(編集 新日本法規出版)
「疾病を抱える社員の労務管理アドバイス-メンタルヘルス・がん・糖尿病・脳卒中-」(共編 新日本法規出版)

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