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民事2019年12月27日 相続法改正と遺言 発刊によせて執筆者より 執筆者:山田知司

 高齢化社会が到来し、特にこれから団塊の世代が後期高齢者となっていくに従って相続の件数が増加していくことは間違いない。遺産分割の話合いは難しく、相続が「争族」となって兄弟が他人の始まりとなる例もよく見聞きする。平成30年の司法統計年報によると、家庭裁判所における遺産分割の調停・審判では、遺産額1000万円以下の事案が33%、遺産額5000万円以下の事案まで含めると76.3%を占めており、遺産の多寡にかかわらず紛争は起こるものである。こうした紛争の予防のために遺言の必要性はますます高まってきている。ところが、以前、裁判所で相続関係の調停・審判や訴訟を担当していたときは、子供のいない夫婦、内縁・連れ子等の籍の入っていない関係、後妻と先妻の子など相続人間に血縁がない関係、相続人同士が不仲等、遺言が当然必要とされる類型でさえ遺言がされておらず、それ故に紛争となっている事件が少なくなかった。
 近年、遺言は増加傾向にあるとはいうものの、平成30年の統計では、公正証書遺言は年間約11万件、自筆遺言・秘密遺言等の検認は年間約1万7500件であり、これを合計しても、年間の死亡者数136万人(推計)と比べると9.4%程度に過ぎず、まだまだ遺言が必要なのにされていない事案が多数あることが窺われ、遺言の普及が急務である。
 これらの事情から、今回の相続法改正では、①自筆遺言の要件が緩和され、財産目録について、全文自署する必要はなく、ワープロによる印刷や登記事項証明書を使用して毎葉に署名押印をしてもよいとされ、②2020年7月からは法務局が遺言を保管する制度が始まり、その場合には検認も必要なくなるので、遺言のハードルが下がり、遺言の普及が期待される。
 しかし、遺言が普及すればするほど、様々な状況を抱え様々な希望をもつ人が遺言をするようになるため、個々の遺言者の抱える問題に応じて内容の多様化が予想される。その中には、財産承継や遺留分といった遺産の問題に留まらず、高度経済成長期に郷里を離れ都会に定住した人達のお墓や祭祀の問題、ペットブームの中で飼主死亡後のペットの行く末や祭祀の問題もある。また、重病になった場合の医療措置・尊厳死の問題や、係累のいない「お一人様」の死後事務処理など、自分の死に伴う問題も遺言に付随して手当をしようとする人も増加すると見込まれる。これらについて、エンディングノートが流行しているが、ノートに書けば子供が実現してくれるような立場にいる人は幸せで、少子化・未婚が多い時代では、そうではない立場の人も多い。このような問題や希望の多くは、単に遺言に条項を記載すればよいというものではなく、その実行や遺言執行の手続、更には事前準備や遺言外の手続についても相当な知識が必要とされるのである。
 法律的な仕事に携わって遺言に関与する者は、これから増加する遺言者の様々な状況や希望に対応し、問題を解決していかなければならず、そのために、遺言の条項・文例とその実現の手段や手続について知識を持ち、研鑽に励まなければならない。

(2019年12月執筆)

発刊によせて執筆者より 全69記事

  1. 相続問題に効く100の処方箋
  2. 相続土地国庫帰属制度の利活用促進の一助になれば
  3. 患者と医療従事者とのより望ましい関係の構築を願って
  4. 遺言・遺産分割による財産移転の多様化と課税問題
  5. 専門職後見人の後見業務
  6. 不動産の共有、社会問題化と民法改正による新しい仕組みの構築
  7. 登記手続の周知
  8. 育児・介護休業制度に対する職場の意識改革
  9. メンタルヘルスはベタなテーマかもしれないけれど
  10. 持続可能な雇用・SDGsな労使関係
  11. 自動車産業における100年に1度の大変革
  12. 中小企業の事業承継の現状と士業間の連携
  13. 消費税法に係る近年の改正について
  14. コーポレートガバナンスと2つのインセンティブ
  15. 労働者の健康を重視した企業経営
  16. 被害者の自殺と過失相殺
  17. <新型コロナウイルス>「株主総会運営に係るQ&A」と中小企業の株主総会
  18. 意外と使える限定承認
  19. 保育士・保育教諭が知っておきたい法改正~体罰禁止を明示した改正法について~
  20. 筆界と所有権界のミスマッチ
  21. 相続法改正と遺言
  22. 資格士業の幸せと矜持
  23. 労働基準法改正への対応等、ケアマネジャーに求められる対応は十分か
  24. 人身損害と物的損害の狭間
  25. <新債権法対応>契約実務における3つの失敗例
  26. 新債権法施行へのカウントダウン - 弁護士実務への影響 -
  27. 不動産売買における瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換の影響
  28. 子を巡る紛争の解決基準について
  29. 所有者不明土地問題の現象の一側面
  30. 相続法の大改正で何が変わるのか
  31. 民法改正による交通事故損害賠償業務への影響
  32. 「相手が不快に思えばハラスメント」の大罪
  33. 身体拘束をしないこと
  34. 合同会社の設立時にご検討いただきたい点
  35. 社会福祉法人のガバナンスが機能不全している実態が社会問題に
  36. 借地に関する民法改正
  37. ただの同棲なのか保護すべき事実婚なのか
  38. 農地相談についての雑感
  39. 瑕疵か契約不適合か 品確法は、改正民法に用語を合わせるべきである
  40. 外国人受入れ要件としての日本語能力の重要性
  41. 相続法改正の追加試案について
  42. 民法(債権法)改正
  43. 相続人不存在と不在者の話
  44. 財産分与の『2分の1ルール』を修正する事情について
  45. 離婚を引き金とする貧困問題と事情変更による養育費の変更
  46. 建物漏水事故の増加と漏水事故に関する終局的責任の帰趨
  47. 働き方改革は売上を犠牲にする?
  48. 次期会社法改正に向けた議論状況
  49. 消費者契約法改正と「クロレラチラシ配布差止等請求事件最高裁判決(最判H29.1.24) 」の及ぼす影響
  50. 「買主、注意せよ」から「売主、注意せよ」へ
  51. 障害福祉法制の展望
  52. 評価単位について
  53. 止まない「バイトテロ」
  54. 新行政不服審査法の施行について
  55. JR東海認知症事件最高裁判決について
  56. 不動産業界を変容させる三本の矢
  57. 経営支配権をめぐる紛争について
  58. マンションにおける管理規約
  59. 相続法の改正
  60. 消防予防行政の執行体制の足腰を強化することが必要
  61. 最近の地方議会の取組み
  62. 空き家 どうする?
  63. 個人情報保護法、10年ぶりの改正!
  64. 最近の事業承継・傾向と対策
  65. ネーム・アンド・シェイムで過重労働は防止できるのか
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  67. 境界をめぐって
  68. 妻の不倫相手の子に対しても養育費の支払義務がある?
  69. 個別労働紛争解決のためのアドバイス
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