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民事2020年01月31日 筆界と所有権界のミスマッチ 発刊によせて執筆者より 執筆者:相場中行

 この度、「これからの土地家屋調査士業務の展望と課題」という書籍を出版させて頂いたが、半分は土地家屋調査士業務の解説であり、半分は筆界と所有権界を巡る法律上の問題の分析である。本書を上梓してつくづく思ったのだが、筆界と所有権界の問題については、二重の意味でのミスマッチが存在する。

1 第一のミスマッチは、筆界と所有権界が乖離しているという点である。
 筆界は、明治6年の地租改正以降に定められたもので(原始筆界)、これにより我が国に初めて近代的私的所有権が成立したと言われている。
 しかし、地租という言葉からもわかるように、地租改正は政府の財源確保が目的であった。この時期の租税収入は地租がほとんどで、その意味では、江戸時代の「年貢」が地租に変わったにすぎない。我が国で始めて所得税(直接税)が導入されるのは明治32年であり、翌明治33年に「衆議院議員選挙法」が定められ、選挙権を付与する要件として、満25歳以上の男子で選挙人名簿への掲載から1年以上直接国税15円以上を納めている者であること(同法第6条)と定められた。察するに、直接税の納付義務と選挙権がバーターということであろう。このあたりを考えると、地租改正に伴う原始筆界の策定は、土地の公法上の境界を定めることが目的ではなく、租税公課が目的であったから原始筆界の精度は高くなかったというべきなのである。
 ここに、取得時効の問題が絡んでくる。そもそも筆界は1個の所有権の範囲を確定するために公法上定められるものであるが、一筆の土地の一部も取得時効の対象となるので、取得時効の成立により必然的に所有権界と筆界が乖離することになる。その意味では、筆界と所有権界の乖離は日々進行しているのである。

2 第二のミスマッチとして弁護士と土地家屋調査士(以下「調査士」)の意識の乖離を指摘することができる。即ち、筆界と所有権界を巡る紛争について、弁護士は所有権優位で考え、調査士は筆界さえ定まれば紛争は解決する、と考えがちである。
 まず、弁護士は、そもそも原始筆界などというものは確定しようがないという意識が強い。さらに、時効制度に関しては、いわゆる訴訟法説、つまり、時効とは永続した事実状態を法律上正当なものと認定すべき義務を裁判所に負わせる証拠法則であるとする説も有力である。だから弁護士には、事実関係が確定できないからこそ時効で紛争を解決する、という意識がどこかにある。しかし、訴訟実務においても原始筆界が特定されているというフィクションを前提としないと、所有権紛争の要件事実は成り立たないのであって、弁護士ももう少し筆界紛争に積極的に関与すべきなのである。
 これに対して、調査士は筆界さえ確定すれば当事者はそれに従うべきであるという発想がある。調査士に筆界調査を依頼すると、「越境物確認書」というのを作成してくることがある。要するに、筆界を調査してみたら物置が隣地に越境しているのでそのことを確認する旨の書面である。このような書面は、調査士の調査に基づく推定筆界線にしたがって占有範囲を是正することを前提としており、一部の調査士は、推定筆界線を認めさせることが調査士のスキルであると思っているようだ。しかし、このような占有範囲の是正を行うと、場合によっては時効援用権の喪失によって当事者に損害を与える結果となりかねない。筆界と所有権界の問題は不可分に結びついているので、調査士は取得時効をはじめとする所有権界の問題にもっと敏感である必要がある。

3 私見によれば、この二つのミスマッチは、相互に関連している。つまり、筆界と所有権界の乖離が容易に解決しないのは、弁護士と調査士の意識の相違及び相互協力が欠如していることが一つ原因である。平成17年の土地家屋調査士法の改正により、境界紛争について筆界ADRという強力なツールが創設されたが、筆界ADRの利用ははかばかしく進展していない。その原因の一つが本稿で指摘した二つのミスマッチにあることは否定できないように思われる。

(2020年1月執筆)

発刊によせて執筆者より 全55記事

  1. 労働者の健康を重視した企業経営
  2. 被害者の自殺と過失相殺
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  5. 保育士・保育教諭が知っておきたい法改正~体罰禁止を明示した改正法について~
  6. 筆界と所有権界のミスマッチ
  7. 相続法改正と遺言
  8. 資格士業の幸せと矜持
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執筆者

相場 中行

弁護士(弁護士法人 アクトワン法律事務所)

略歴・経歴

・東北大学法学部卒,弁護士(第一東京弁護士会42期),弁護士法人アクトワン法律事務所(代表社員弁護士)
松嶋総合法律事務所にて都市銀行・ノンバンク・ リース会社・クレジット会社・カード会社等を担当し,金融法・担保法・不動産取引を主として執務。司法研修所民事弁護所付,法務研究財団研修委員,司法書士簡裁代理関係業務認定考査委員等を歴任。
・上場企業の監査役,独立委員会委員, ファンドの投資委員会委員などの経験を通じて,企業法務を得意分野とする。
・公益社団法人全日本不動産協会の全日住宅ローンアドバイザーの有識者委員,公益財団法人日弁連法務研究財団研修委員, 日本土地家屋調査士会連合会の法務委員などを務めている。

弁護士法人 アクトワン法律事務所
http://act1-legal.jp/greeting.html

<主要著書等>
『区分所有とマンションの法律相談』 (共著,学陽書房, 1987), 『借地借家の法律』 (共著, ビジネス教育出版社。 1994), 『不動産紛争・管理の法律相談』 (共著,青林耆院, 1994), 『問答式マンションの法律実務』 (共著,新日本法規出版1991), 『簡裁民事実務NAVI第2巻・第3巻(紛争類型別要件事実の基本1 ・2)j (共著,第一法規2011), 『境界紛争事件処理マニユアル』 (共編新日本法規出版, 2015)他多数

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