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民事2020年03月09日 意外と使える限定承認 発刊によせて執筆者より 執筆者:吉利浩美

 相続が開始したとき、相続人が採るべき手段は3つあります。単純承認、相続放棄、そして限定承認です。
 しかし、債務の全貌が不明な場合でも、選択される手続の多くは、熟慮期間の伸長を経た上での単純承認か相続放棄であるように思われます。その場合も、債務の全貌を明らかにした上で、確たる根拠でその手続を選択しているわけではなく、ある程度の調査を尽くしたことを理由に、蓋然的に判断することがほとんどです。もちろん、その判断が結果的に適切であった事例がほとんどでしょうが、被相続人が事業を営んでおり多数の取引先が想定される場合などは、相続人に知れない債務の存在が懸念され、判断に迷いを生じることもあります。
 また、遺産のなかに、愛着のある自宅や家業の株式など、どうしても手放せない財産が含まれている場合、相続放棄ができないからと安易に債権者との間で任意整理の交渉を開始して失敗してしまうと、その財産を失う恐れもあります。

 限定承認は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して相続する手続です。つまり、被相続人の債務や遺贈の義務を積極財産の範囲に限定できるわけですから、債務の全貌が不明である相続人にとって、本来は願ったり叶ったりの制度であるはずです。
 また、限定承認者は、鑑定人が評価した適正価格により相続財産を買い受けることも可能であるため、特定の遺産を優先的に手に入れることもでき、自宅や家業を守りたいという希望も叶えることもできます。

 ところが、限定承認の制度はほとんど活用されておらず、新受件数もここ数年700件前後と非常に少ないのが現状です。実務での取扱いが少ないからこそ、実務家も敬遠し、さらには金融機関などの債権者も対応に慣れていないため手続が円滑に進めづらいという悪循環に陥っているように思われます。
 相続分野に関わる実務家として、相続人の選択手段を増やすためにも、特殊な手続であるからと無碍にすることなく、自己研鑽に努めたいものです。

(2020年3月執筆)

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