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民事2017年11月06日 外国人受入れ要件としての日本語能力の重要性 発刊によせて執筆者より 執筆者:山脇康嗣

 これまで、行政書士及び弁護士として、入管法に関わる相談を通して、外国人の泣き笑いに多く接してきた。入管法上の手続は、外国人の結婚、離婚、死別、出産、養子縁組、就職、退職、進学など、まさに人生の節目ごとにとらなければならない。従って、入管法上の手続の相談を通して、人生の節目に立つ外国人の思いに、かなり深く、かつ、生々しく接することとなる。
 数千件にのぼるこれまでの相談を通してわかったことは、親子の情愛、夫婦愛、友情、あるいは、理不尽に対する怒り、別離の悲しみといった感情は、人種・国籍を問わず、全世界で共通するということである。例えば、自分を育ててくれた年老いた親の面倒を見たい、窮地に陥った恋人や配偶者を助けたい、離婚に際してどうしても子の親権を取得したい、子の将来のために日本で優れた教育を受けさせたい、事業を起こし一旗揚げて社会的に成功したいといった感情は、当然のことではあるが、同じ血の通った人間として世界共通だと思い知った。
 他方で、「法律などの社会的ルールを守る」とか、「合意のもとで決めた契約を守る」といった意識については、もちろん個人ごとに異なるのではあるが、一般的な傾向として、国や地域によって、かなりの差があることを実感している。これらの意識が低く、「嘘でも違法でも、ばれなければそれでよい」といった考えの外国人が多数となると、当然ながら、日本の治安は悪化し、社会的な安定が図れなくなる。そうなると、個人が安心して自己実現を図ることもできなくなる。
 加えて、どのような国や地域の出身であっても、日本語能力が一定程度以上あれば、日本社会になじむことができ、大きな問題を起こす可能性が低いことも、経験上確信している。おそらく、大事(おおごと)になる前に、日本人の知人や自治体を含む周囲から適切な情報やサポートを得られるからであろう。多くの日本人は、日本語を話せる外国人に対しては、「アレルギー」が著しく低減し、摩擦が生じない。そのような意味においては、外国人留学生は、日本の大学や専門学校などに通学している間に、かなりの時間、アルバイト活動を行えるため、それにより、日本語能力が飛躍的に向上するのはもちろんのこと、必ずしも言語化されていない日本の社会ルールや「空気」を読む力なども身につけられる。従って、できるだけ日本人との摩擦を少なくし、社会の安定性を図るという観点からは、一定程度以上の専門性ある外国労働人材の確保手段としては、基本的には、日本の大学や専門学校などを卒業した留学生の就職による継続在留を第一に考えるべきであろう。
 ところで、日本は、著しく少子高齢化が進み、各分野において労働力不足が深刻である。そのため、日本の外国人政策は、大きな流れとして、「一定程度以上の専門性ある人材のみを受け入れる」というものから、「(求める専門性のレベルを緩和して)日本社会が真に必要としている人材は、相当である限り受け入れる」というものに移行しつつある。つまり、外国人労働者受入れの選別基準が、「専門性」から「必要性・相当性」へと変化しつつある。「相当性」とは、受け入れても大きな問題が起きないことである。これまでの出入国管理法制下においては、一定程度以上の専門性がないと評価されるため受入れが認められてこなかった人材(単純就労的な側面がある業務)であっても、今後は、真に必要性と相当性が認められる限りは、受け入れる方向に進むことになると思われる。求める専門性のレベルを緩和して受け入れる場合の相当性の判断基準としては、先に述べた観点から、日本語能力が鍵になる。
 日本社会が外国人とうまく共生していくためには、基本的人権の制限にわたらない限りでの一定程度の社会的統合が必要不可欠であり、そのためには、外国人の日本語能力が重要である。現在の出入国管理法制においては、外国人が、ごく一部の在留資格について最長の在留期間(5年)を得るための要件、あるいは、特に在留管理上優遇される「高度人材」と認定されるためのポイントの一つとして、日本語能力を求めているにすぎない。しかし、今後、外国人労働者に求める専門性のレベルを緩和し、受入人数も増加させていくのであれば、受入れと継続在留の要件あるいは要素として、より幅広く日本語能力を重視するべきである。

(2017年11月執筆)

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