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民事2017年07月10日 離婚を引き金とする貧困問題と事情変更による養育費の変更 発刊によせて執筆者より 執筆者:平田厚

 現代的な貧困問題は、正規雇用が求められないことに起因する貧困と離婚を引き金とする貧困が特徴的ではないかと思います。正規雇用が減少していることに対しては、国家の社会政策として取り組むべきですが、離婚を引き金とする貧困問題に対しては、国家の公的扶助として取り組むべきであるというだけでなく、家族法の扶養制度からもアプローチすべき問題です。
 民法には、家族関係における権利義務について、いったん協議や審判で決まったことであっても、その後の事情変更によって変更しうるとする条文がいくつかあります。たとえば、民法880条は、扶養義務について事情変更による変更審判を定めています。具体的には、離婚の際に子どもの養育費を10万円と決めたとしても、その後に義務者である父親が病気になって収入が減った場合には、養育費の減額請求ができるわけです。そのようにやむを得ない事情がある場合には、不足するお金については公的扶助で対応すべきです。
 財産法上の契約関係においては、契約に拘束力が認められている以上、そう簡単に事情変更による変更は認められるべきではないでしょう。しかし、家族関係においては、権利義務が長期的に継続することが多いですし、義務を負っている家族が逆に苛酷な状況に陥ったりしないように家族の実情に従って変更していくことが認められているのです。ただし、家族関係における権利義務といっても、それぞれの条文において、一定の要件が備わっていれば具体的な権利義務が生ずると定めているわけですから、無条件に家庭裁判所が変更審判をしていいわけではありません。あくまでも民法が定めている要件に事情変更が影響を与えているからこそ、変更審判が可能になるのだろうと思います。
 もっとも民法の規定の仕方は、非常に広く事情変更による変更審判を認めているように見えます。そのため、協議や審判で決められたことに不満を持つ当事者は、作為的に事情変更を作出して、変更審判を求めるような事態も発生することになります。最近の母子家庭での貧困は、離婚の際にいったん協議で決めた養育費の支払が約束どおりに支払われていないことに基づくことも多いと思われます。約束どおりに養育費が支払われなければ、履行勧告制度や強制執行制度に基づいて実現させることもできますが、そうなる前に義務者が先手を打って事情変更による変更審判を求めるケースもあるようです。
 作為的に養育費を減額しようとするケースでは、変更審判を認めるべきではありません。しかし、変更審判をするための要件を欠いているから変更審判は許されないとするのか、それとも、変更するのは相当でないから変更審判は許されないとするのか、必ずしも明確になっていないところがあります。もしそうだとすれば、個別事例を精査して、どのような場合にはどのような理由で変更審判が許されないと考えるのかを定式化していくことが必要であるように思います。

(2017年6月執筆)

発刊によせて執筆者より 全69記事

  1. 相続問題に効く100の処方箋
  2. 相続土地国庫帰属制度の利活用促進の一助になれば
  3. 患者と医療従事者とのより望ましい関係の構築を願って
  4. 遺言・遺産分割による財産移転の多様化と課税問題
  5. 専門職後見人の後見業務
  6. 不動産の共有、社会問題化と民法改正による新しい仕組みの構築
  7. 登記手続の周知
  8. 育児・介護休業制度に対する職場の意識改革
  9. メンタルヘルスはベタなテーマかもしれないけれど
  10. 持続可能な雇用・SDGsな労使関係
  11. 自動車産業における100年に1度の大変革
  12. 中小企業の事業承継の現状と士業間の連携
  13. 消費税法に係る近年の改正について
  14. コーポレートガバナンスと2つのインセンティブ
  15. 労働者の健康を重視した企業経営
  16. 被害者の自殺と過失相殺
  17. <新型コロナウイルス>「株主総会運営に係るQ&A」と中小企業の株主総会
  18. 意外と使える限定承認
  19. 保育士・保育教諭が知っておきたい法改正~体罰禁止を明示した改正法について~
  20. 筆界と所有権界のミスマッチ
  21. 相続法改正と遺言
  22. 資格士業の幸せと矜持
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  25. <新債権法対応>契約実務における3つの失敗例
  26. 新債権法施行へのカウントダウン - 弁護士実務への影響 -
  27. 不動産売買における瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換の影響
  28. 子を巡る紛争の解決基準について
  29. 所有者不明土地問題の現象の一側面
  30. 相続法の大改正で何が変わるのか
  31. 民法改正による交通事故損害賠償業務への影響
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  34. 合同会社の設立時にご検討いただきたい点
  35. 社会福祉法人のガバナンスが機能不全している実態が社会問題に
  36. 借地に関する民法改正
  37. ただの同棲なのか保護すべき事実婚なのか
  38. 農地相談についての雑感
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  40. 外国人受入れ要件としての日本語能力の重要性
  41. 相続法改正の追加試案について
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  43. 相続人不存在と不在者の話
  44. 財産分与の『2分の1ルール』を修正する事情について
  45. 離婚を引き金とする貧困問題と事情変更による養育費の変更
  46. 建物漏水事故の増加と漏水事故に関する終局的責任の帰趨
  47. 働き方改革は売上を犠牲にする?
  48. 次期会社法改正に向けた議論状況
  49. 消費者契約法改正と「クロレラチラシ配布差止等請求事件最高裁判決(最判H29.1.24) 」の及ぼす影響
  50. 「買主、注意せよ」から「売主、注意せよ」へ
  51. 障害福祉法制の展望
  52. 評価単位について
  53. 止まない「バイトテロ」
  54. 新行政不服審査法の施行について
  55. JR東海認知症事件最高裁判決について
  56. 不動産業界を変容させる三本の矢
  57. 経営支配権をめぐる紛争について
  58. マンションにおける管理規約
  59. 相続法の改正
  60. 消防予防行政の執行体制の足腰を強化することが必要
  61. 最近の地方議会の取組み
  62. 空き家 どうする?
  63. 個人情報保護法、10年ぶりの改正!
  64. 最近の事業承継・傾向と対策
  65. ネーム・アンド・シェイムで過重労働は防止できるのか
  66. 離婚認容基準の変化と解決の視点
  67. 境界をめぐって
  68. 妻の不倫相手の子に対しても養育費の支払義務がある?
  69. 個別労働紛争解決のためのアドバイス

執筆者

平田 厚ひらた あつし

明治大学専門職大学院法務研究科教授・弁護士

略歴・経歴

昭和35年5月   鹿児島県鹿児島市生まれ
昭和54年3月   鹿児島県立鶴丸高校卒業
昭和60年3月   東京大学経済学部経済学科卒業
昭和62年11月 司法試験合格
平成2年4月   弁護士登録
平成8年9月   ベルギー、ルーヴァンカソリック大学留学
平成16年4月   明治大学法科大学院専任教授就任
平成24年1月   日比谷南法律事務所設立

〔著 書〕
『新しい福祉的支援と民事的支援―英国コミュニティケア改革とわが国の社会福祉基礎構造改革―』(筒井書房、2000)
『増補 知的障害者の自己決定権』(エンパワメント研究所、2002)
『家族と扶養―社会福祉は家族をどうとらえるか―』(筒井書房、2005)
『これで納得!成年年齢―18歳成人論の意味と課題―』(ぎょうせい、2009)
『親権と子どもの福祉―児童虐待時代に親の権利はどうあるべきか―』(明石書店、2010)
『虐待と親子の文学史』(論創社、2011)
『権利擁護と福祉実践活動―概念と制度を問い直す―』(明石書店、2012)
『建築請負契約の法理』(成文堂、2013)
『借地借家法の立法研究』(成文堂、2014)
『プラクティカル家族法―判例・理論・実務―』(日本加除出版、2014)
『福祉現場のトラブル・事故の法律相談Q&A』(清文社、2015)
『新しい相続法制の行方』(金融財政事情研究会、2015)
『審判例にみる 家事事件における事情変更』(新日本法規出版、2017)
『判決例・審判例にみる 婚姻外関係 保護基準の判断―不当解消・財産分与・死亡解消等―』(新日本法規出版、2018)
『〔改正相続法対応〕Q&A相続財産をめぐる第三者対抗要件』(新日本法規出版、2019)
『介護事故の法律相談』(青林書院、2019)
『子の親権・監護・面会交流の法律相談』(青林書院、2019)
『成年後見ハンドブック』(法曹会、2020)
『民事における意思能力の判断事例集』(新日本法規出版、2020)
『婚姻費用・養育費・財産分与の法律相談』(青林書院、2020)
『子の利益に適う離婚協議』(第一法規、2021)
『終活と相続・財産管理の法律相談』(青林書院、2022)
『遺言執行と条項例の法律実務』(青林書院、2022)
『面会交流実施要領から理解する面会交流の条件・条項』(第一法規、2022)
など著書多数

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