民事2019年02月13日 相続法の大改正で何が変わるのか 発刊によせて執筆者より 執筆者:平田厚
このたび相続法の大改正が行われました。配偶者が死亡した場合の他方配偶者に対する居住権の保障や自筆証書遺言の保管制度などについては、新しい制度が創設されることになりました。そのほかにも、多くの論点で従来の制度を改める内容が示されています。その全体像について法律実務家が知っておくべきなのはもちろんですが、どのような改正内容がいつから施行されることになっているのかについても法律実務家は知っておかなければなりません。
もっとも、今回の相続法の大改正で示された新制度が、現在までの実務に著しく大きな影響を及ぼすかどうかについては、しばらく時間を要することになるかと思います。なぜなら、新制度がどの程度の実効性と有効性を有しているかについては、時間をかけて検証していく必要があるからです。ところが、不動産の対抗要件に関する改正については、改正内容の施行日である2019年7月1日には直ちに影響が出てくると思われます。この点は、従来の実務を施行日からドラスティックに改めるものだからです。
不動産の相続に関しては、法定相続分や指定相続分については、相続人は対抗要件である登記を備えなくても第三者に対抗できるという最高裁判決がありました。法定相続分は民法によって周知されているからあまり問題はないのですが、指定相続分は遺言で示されるだけですし、遺言があるのかどうかもわからない場合が往々にしてあります。しかも、相続人に対して包括遺贈がなされた場合には、包括遺贈が指定相続分と同じような機能を有しているのにもかかわらず、登記がなければ第三者に対抗できないとされています。
そうだとすれば、指定相続分についてまで登記なくして対抗できるとするのは、取引の安全を害してしまいます。実は、民法の従来の実務には、そのような不都合やアンバランスが存在していました。遺言執行者がある場合の相続人の処分行為に関しては、絶対的な無効と判断するものがあり、第三者は一切保護されないとする最高裁判決もあって、これに対しても従来から疑問が呈されてきました。
このたびの相続法の大改正では、それらのような不都合やアンバランスを修正する作業が幅広く行われたと評してもいいのではないかと思います。対抗要件としては、動産や債権の相続に関しても問題となるところですが、『〔改正相続法対応〕 Q&A 相続財産をめぐる第三者対抗要件』(新日本法規出版株式会社)では、不動産の対抗要件に焦点を絞って、どのような場面でどのような修正が行われたのかを整理してみましたので、参考にしていただければと思います。
(2019年2月執筆)
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執筆者
平田 厚ひらた あつし
明治大学専門職大学院法務研究科教授・弁護士
略歴・経歴
昭和35年5月 鹿児島県鹿児島市生まれ
昭和54年3月 鹿児島県立鶴丸高校卒業
昭和60年3月 東京大学経済学部経済学科卒業
昭和62年11月 司法試験合格
平成2年4月 弁護士登録
平成8年9月 ベルギー、ルーヴァンカソリック大学留学
平成16年4月 明治大学法科大学院専任教授就任
平成24年1月 日比谷南法律事務所設立
〔著 書〕
『新しい福祉的支援と民事的支援―英国コミュニティケア改革とわが国の社会福祉基礎構造改革―』(筒井書房、2000)
『増補 知的障害者の自己決定権』(エンパワメント研究所、2002)
『家族と扶養―社会福祉は家族をどうとらえるか―』(筒井書房、2005)
『これで納得!成年年齢―18歳成人論の意味と課題―』(ぎょうせい、2009)
『親権と子どもの福祉―児童虐待時代に親の権利はどうあるべきか―』(明石書店、2010)
『虐待と親子の文学史』(論創社、2011)
『権利擁護と福祉実践活動―概念と制度を問い直す―』(明石書店、2012)
『建築請負契約の法理』(成文堂、2013)
『借地借家法の立法研究』(成文堂、2014)
『プラクティカル家族法―判例・理論・実務―』(日本加除出版、2014)
『福祉現場のトラブル・事故の法律相談Q&A』(清文社、2015)
『新しい相続法制の行方』(金融財政事情研究会、2015)
『審判例にみる 家事事件における事情変更』(新日本法規出版、2017)
『判決例・審判例にみる 婚姻外関係 保護基準の判断―不当解消・財産分与・死亡解消等―』(新日本法規出版、2018)
『〔改正相続法対応〕Q&A相続財産をめぐる第三者対抗要件』(新日本法規出版、2019)
『介護事故の法律相談』(青林書院、2019)
『子の親権・監護・面会交流の法律相談』(青林書院、2019)
『成年後見ハンドブック』(法曹会、2020)
『民事における意思能力の判断事例集』(新日本法規出版、2020)
『婚姻費用・養育費・財産分与の法律相談』(青林書院、2020)
『子の利益に適う離婚協議』(第一法規、2021)
『終活と相続・財産管理の法律相談』(青林書院、2022)
『遺言執行と条項例の法律実務』(青林書院、2022)
『面会交流実施要領から理解する面会交流の条件・条項』(第一法規、2022)
など著書多数
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