民事2016年02月16日 空き家 どうする? 発刊によせて執筆者より 執筆者:澤健二
空き家の数
空き家の問題に関心が高まっています。
総務省統計局の平成25年の住宅・土地統計調査によれば、空き家総数は820万戸あり、空き家のうち別荘等の2次的住宅、賃貸用・売却用の空き家が61.2%を占めるそうです。
これらは一応管理されているとみていいので、放置されている空き家が38.8%、数にして318万戸あるそうです。この中には、危険な空き家(特定空家等)と利活用可能な空き家があります。名古屋市についていえば、約15万戸の空き家があり、うち4万戸は老朽化した空き家だそうなので、空き家の25%以上が「特定空家等」に該当する可能性のある空き家ということになりますね。
なお、空き家の総数は、平成20年の調査から62.8万戸増加しているとのことです。人口は減少傾向になっているにもかかわらず、今も都会では新築マンションが建築され、住宅は増える一方ですので、空き家も増加の一途をたどるのでしょう。
空き家対策特別措置法
空き家対策特別措置法が、平成26年11月に公布され、平成27年5月26日全面施行されました。
これに伴い、各自治体が有していた空き家対策条例の改正も進んでいると思います。名古屋市は空き家対策条例を空き家対策特別措置法に対応するよう改正し、平成27年11月に施行されました。
空き家対策特別措置法は、大雑把にいうと①危険な空き家(特定空家等)を解体する手続を定めるとともに、②空き家に関するデータベースを作り、所有者等に適正管理を促しています。
空き家を壊す
空き家対策特別措置法により、近隣にとって迷惑な空き家の解体が促されると思われます。
また、国土交通省は、従来あまり使われなかった建築基準法10条に基づく是正命令について、平成27年5月に、「既存不適格建築物に係る是正命令制度に関するガイドライン」を定め、保安上・衛生上著しく有害な建物を解体できる判断の基準を明確化しました。空き家に限らず迷惑な建物を解体した過去の事例も紹介しています。
近年、行政手続法や行政不服審査法等の行政法規も改正されましたので、近隣の住民は迷惑な空き家について、行政の不作為等があれば色々使える法整備がなされました。
さらに、特定空家等と認定され、除却等の「勧告」を受けると固定資産税の優遇措置の対象から除外することとされました。従前、利用する見込みのないあばら家でも、住宅用地とみなされると、固定資産税の課税標準額が更地の場合の最大6分の1の額になりましたが、この適用がなくなることになりますので、従前の固定資産税の6倍になってしまいます。所有者の管理・処分を促すことになりそうです。
所有者が空き家の撤去等適正な措置を講ずると、固定資産税の優遇措置の適用除外を数年間猶予する条例を制定する自治体も出始めました。
空き家を利活用する
空き家対策特別措置法では、市町村に対し、空家等対策計画を策定し、固定資産税情報を利用して空家等のデータベースを作り、空家等の適切な管理を促進するため必要な援助を行い、空家等及び空家等の跡地の有効活用のために必要な対策を講ずるよう努めることとされています。空き家所有者に対する相談窓口、助成制度等により、所有者等に適正管理をさせる方向の施策が進むものと思われます。
平成28年度の与党の税制改正大綱には、被相続人が住んでいた住居が死亡により空き家になった場合、種々の要件を設けて、空き家を売却する場合に居住用資産の譲渡の際の3,000万円の控除を適用するという内容が盛り込まれています。
また自治体の中には空き家バンクと銘打ち、空き家情報を提供して、空き家の賃貸や売買につなげる工夫をしたり、都会の人に空き家に住んでもらい過疎対策にもしようという取り組みも進んでいます。
国土交通省は、平成26年3月に「個人住宅の賃貸流通を促進するための指針」等を盛り込んだ最終報告書を公表しました。ここでは、借主が建物の修繕等を自由にできるようにし、その代わり賃料を低額にするような賃貸借の形態(DIY)を提案する等しています。所有者にとっては、他者に貸すに際し初期投資が不要となるメリットがあります。
外国人観光客の増加により、民泊制度を緩和しようとする動きがありますが、宿泊施設やシェアハウスにも空き家の利活用が検討されていくと思います。
種々のツールが用意されてきましたが、空き家は増える一方です。空き家の利活用のためには官だけでなく、官民連携して知恵を絞る時代です。
異業種が連携して空き家対策をきっかけに高齢世帯等を巻き込んでまちづくりに発展するようなこともあっていいと思います。空き家の撤去をきっかけに木造住宅密集地域の再開発などができれば災害対策にもなりますね。
(2016年2月執筆)
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