契約2023年06月09日 専門職後見人の後見業務 発刊によせて執筆者より 執筆者:額田洋一
『第二期成年後見制度利用促進基本計画』(令和4年3月25日閣議決定)では、「尊厳のある本人らしい生活を継続できるようにするため」に「本人の自己決定を尊重し、意思決定支援・身上保護も重視した制度の運用とする」ことの必要性が説かれ、そのための施策の一つとして「後見事務を適切に行う後見人等の選任」が挙げられている。これまで以上に、後見事務の適正化が求められているのである。
成年後見人等は裁判所から選任されるものである以上、専門職後見人にとっては、実質的なクライアントは裁判所である。クライアントの求める水準の事務を行う必要がある。もちろん、後見人は本人のために活動するのであり、常にそれを指針として後見事務を行うべきであるが、現実的には、裁判所から不適任の烙印を押されたら「次」はない。
他方で、後見人には広い裁量が認められている。そのため、個々の処理について裁判所に問い合わせても後見人の「裁量で」と言われるだけで、まず、後見人としての主体的な判断を求められる。日頃のやり取りのなかで力量を評価されていると考えた方がよい。
では、どうすればよいのだろうか。
第一に、制度を十分に理解する。なぜそうするのか、なぜそのような事務や対応が求められているのか、をきちんと理解しておく。原則を押さえることが肝要である。
その上で、現実的な対応も考える。杓子定規にやりすぎると非常識な結論になったり、「地域生活」や親族関係において摩擦も生じかねない。原則との微妙な兼ね合いがとれることが専門性である。
また、後見人としての自分のやり方が独善や自己流に陥っていないか、常に自己点検したい。そのためには、標準的な手法と照らし合わせて当否を考えたり、他の専門職後見人と意見を交わすことが有用であろう。
専門職後見人は、その専門性から被後見人を支援することが要請されているが、後見業務もまた専門「職」の「なりわい」であることは間違いない。要は「いただく報酬に見合った」サービスを提供できているか、である。その意識を徹底することが、手抜き批判を招かない、逆に抽象的な理念からの空回りを防ぐための要諦と考える。
後見は裁判所がリードする面が大きい。しかし、裁判所とて無謬ではない。裁判所の都合を優先しすぎた解釈や運用がなされることも皆無とはいえないであろう。そのような場合、専門職(集団/団体)としては、被後見人の利益となるよう、あるいは専門職後見人の利益を不当に害することにならないよう、あるべき姿を建言していくことも必要だと思う。
現在の後見業務は、現行制度ができた後に専門職となった若い人たちが多くを担っている。それらの人たちの頑張りには心から敬意を表する。拙著が、彼女ら・彼らへのエールになれば、著者としてこれにまさる喜びはない。
(2023年5月執筆)
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