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民事2017年10月18日 民法(債権法)改正 理論か実務か 発刊によせて執筆者より 執筆者:阿部泰久

1.今回の民法(債権法)改正の目的は、制定以来の社会・経済の変化に対応したものとすること、および、国民一般に分かりやすいものとすることの二つであり、このうち後者には、①判例ルールの明文化、②不明確な条文の明確化、③書かれていない前提、原理、定義を補う、という3つの意味があるとされていました。逆に言えば、確定した判例や周知の解釈によって、民法典には書かれていない規律も十分に補われてきており、少なくとも実務の世界は大きな支障なく回ってきたとも言えます。

2.法務省では、民法(債権法)の抜本改正を行う方針を明らかにし、まず2006 年10月「民法(債権法)改正検討委員会」が設置されました。これは、学者を中心とする私的な研究会でしたが、委員長には法制審議会民法(債権関係)部会長となる鎌田薫早稲田大学教授、事務局長には法務省に移って改正作業を陣頭指揮した内田貴東京大学教授が就任し、そのほかのメンバーも多くが法制審民法部会の委員・幹事となりました。また、法務省民事局の担当官が運営に深く関与しており、法制審議会に向けた改正案のたたき台を作成する場であったことは明らかです。
 2009年3月に公表された「債権法改正の基本方針(改正試案)」は、個々の基本方針を「提案」と称し、「提案」は条文のような体裁のものでした。また、債権編のみならず、総則編中の契約にかかわる部分等を対象に合める一方、法定債権(事務管理、不当利得、不法行為)は対象としておらず、消費者法や商法の規定のうち基本的なものは民法典に合めるべきであるとの考え方のもと、消費者や事業者が当事者となる場合の特則が設けられているなど、まったく新たに体系的な「契約法」を制定しようとの提案でした。「改正試案」は、最先端の学説の集大成であるばかりでなく、法改正を意識した提案としても、非常に分かりやすく優れたものでした。もし白地に絵を描くように新たに契約法を作るのであればベストな提案であったでしょう。しかし、いかに優れた提案であっても、120年に及ぶ実務の蓄積を放棄して、これに取り換えることはできません。

3.債権法改正を審議した法制審議会民法(債権関係)部会は、2009年11月24日に第1回会合を開催し、東日本大震災による中断をはさみながらも、2015年2月まで5年3か月にわたりましたが、これは、「改正試案」を暗黙の出発点としながらも、主に実務の側からの反駁を受け入れながら、項目を徐々に絞り込み、改正内容を現行実務とできるだけ接続可能なものに収めていくという過程でもありました。ちなみに改正項目は、「改正試案」では900に及んでいましたが、部会の「中間的な論点整理」では500強、中間試案では約260、最終的な要綱案では約200に絞り込まれていきました。

4.それでは、実務の側から学者の理論を圧倒していったのは誰だったのでしょうか。部会に参加していた実務者は、弁護士4名、経済界3名でした。このうち、弁護士会は必ずしも一枚岩ではなく、中間的論点整理、中間試案へのパブリック・コメントも、各単位会、有志、個人からのものが飛び交っていました。経済界のうち経団連は、債権譲渡の対抗要件や保証債務、定型約款等については、強固な主張を貫いていましたが、必ずしも改正項目全般にわたり意見を示してはいません。
 実は、すべての改正項目について目を配りながら、実務からの乖離を防ぐよう尽力していたのは裁判所でした。部会には裁判官が4名参加し、中間的論点整理、中間試案に対しても最高裁として膨大なコメントを寄せていました。その判断基準は、従来の裁判実務の観点から合理性があるか否か、平たく言えば裁判ができるかどうか、ということでした。また、法務省民事局も、局長、参事官以下、スタッフの大部分が裁判所からの出向者であり、自分が裁判官に戻った時に、戸惑うことになることが分かっている改正はできません。
 確定した判例や解釈の明文化や、条文の明確化を図る改正であればよくても、いくら理論的に正しいことであったとしても、既に固まった判例・解釈があり、実務でも何も問題がないところを改正するのは「壊れていないところをいじる」ものでしかありません。また、何が「暴利行為」なのかなど、法理論的に明確にならないものを、裁判官の個々の解釈でやっていけば、混乱を拡げることになりかねません。かくして、学者の理想論は押し戻され、実務的に「容認できる」範囲での民法(債権法)改正となった次第です。

(2017年9月執筆)

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