民事2019年02月14日 所有者不明土地問題の現象の一側面 発刊によせて執筆者より 執筆者:山田猛司
所有者不明土地問題がクローズアップされてから政府関係機関において様々な委員会を設置し、その問題解決を模索しているところです。
相続登記の義務化や所有権の絶対的放棄等が問題となっておりますが、それらは今後の解決手段として一定の効果を発揮するものと考えられます。
しかし、現時点における所有者不明土地を放っておいても超高齢化社会においては相続人を調査している最中にも新たな相続が発生することが往々にして起こりえます。つまり、現状を放っておけばさらに悪化することが確実なので、現状の改善及び将来への対策を同時にしなければならないということになります。
現状の改善をするにしても登記名義と所有者を一致させることが必要となりますので不動産登記簿の調査から入りますが、現在のコンピュータ化された登記事項証明書の他、閉鎖された不動産登記簿や土地台帳を閲覧する必要がある場合もあります。
昔の登記簿には住所の記載のないもの(変則登記という場合もあります。)や持分の記載のないものもあり、多数共有者の全員を掌握するのが大変困難な場合もあります。そして、共有者が判明したとしても相続が発生しており、相続人に連絡すると、面倒ごとに巻き込まれたくないという理由から相続放棄をされる方もいらっしゃいます。高齢者を狙った詐欺事件の多発がこんなところにも影響しているように思われます。
少子高齢化社会で相続が発生した場合の影響としては子供もなく、親もない場合が多く、相続人は自ずと兄弟姉妹となりますが、高齢者である兄弟は判断能力に問題がある場合もあり、所有者の特定には多くの困難が存在することが容易に予想されます。
個人の寿命より長く存在するであろう法人においても、時として当該法人が実在しない場合が多くあります。その原因には解散の他、本店移転、組織変更、合併等いろいろな原因があります。
合併等の場合にはそのすべての権利義務が承継されますので承継法人に対応を促せば解決する場合が多いのですが、事業譲渡や会社分割の場合は当該不動産に関する権利義務を承継しているかどうかといった問題もあります。
そして問題が一番多い「解散した法人」の場合には、商業登記簿さえ存在しない場合もあります。そういった場合には法人であっても不在者財産管理人の制度を活用することができることとされていますが、不動産の処分方法によっては株主や税務署との関係でも頭を悩ませる問題が山積しています。
商業登記簿の調査においてはある程度商業登記の知識がなければ調査も難しい場合があり、会社によっては本店移転と商号変更を繰り返すと調査不能に近い場合があります。
先日調査した会社では本店と商号が同一の二つの法人が存在し、なおかつ代表者が同一人でした。今では考えられないことですが、旧商法時代には類似商号による設立規制はありましたが、会社の目的(事業内容)が違えば本店と商号が同一であっても類似商号には該当しないので、外部からは全く区別のつかない会社が存在しえましたが、後に類似商号の問題ではなく違法性の問題として、同一本店同一商号の設立登記はできないこととなりました(昭和63年2月16日民四第712号民事局第四課長回答)。現在は会社法人等番号により別会社と判別できます。
そういった事態を受け「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が平成30年法律第49号として成立し、平成30年11月15日から施行されていますが、その第40条において登記の特例が定められ、登記官が職権で所有権の登記名義人の死亡後長期間にわたり相続登記等がされていない土地である旨、その他当該探索の結果を確認するために必要な事項として法務省令で定めるものを登記所有権の登記に付記することができることとされています。また、当該土地について相続登記の申請を勧告することができることとなっていますのでこの付記登記や勧告により、所有者不明土地が減少することが期待されます。
(2019年2月執筆)
人気記事
人気商品
関連商品
発刊によせて執筆者より 全75記事
- この世には地獄がある
- 使い倒していただくことを願って
- 発刊によせて
- 最適な贈与契約のために
- 発刊によせて
- 税理士事務所経営のささやかな羅針盤となるように
- 相続問題に効く100の処方箋
- 相続土地国庫帰属制度の利活用促進の一助になれば
- 患者と医療従事者とのより望ましい関係の構築を願って
- 遺言・遺産分割による財産移転の多様化と課税問題
- 専門職後見人の後見業務
- 不動産の共有、社会問題化と民法改正による新しい仕組みの構築
- 登記手続の周知
- 育児・介護休業制度に対する職場の意識改革
- メンタルヘルスはベタなテーマかもしれないけれど
- 持続可能な雇用・SDGsな労使関係
- 自動車産業における100年に1度の大変革
- 中小企業の事業承継の現状と士業間の連携
- 消費税法に係る近年の改正について
- コーポレートガバナンスと2つのインセンティブ
- 労働者の健康を重視した企業経営
- 被害者の自殺と過失相殺
- <新型コロナウイルス>「株主総会運営に係るQ&A」と中小企業の株主総会
- 意外と使える限定承認
- 保育士・保育教諭が知っておきたい法改正~体罰禁止を明示した改正法について~
- 筆界と所有権界のミスマッチ
- 相続法改正と遺言
- 資格士業の幸せと矜持
- 労働基準法改正への対応等、ケアマネジャーに求められる対応は十分か
- 人身損害と物的損害の狭間
- <新債権法対応>契約実務における3つの失敗例
- 新債権法施行へのカウントダウン - 弁護士実務への影響 -
- 不動産売買における瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換の影響
- 子を巡る紛争の解決基準について
- 所有者不明土地問題の現象の一側面
- 相続法の大改正で何が変わるのか
- 民法改正による交通事故損害賠償業務への影響
- 「相手が不快に思えばハラスメント」の大罪
- 身体拘束をしないこと
- 合同会社の設立時にご検討いただきたい点
- 社会福祉法人のガバナンスが機能不全している実態が社会問題に
- 借地に関する民法改正
- ただの同棲なのか保護すべき事実婚なのか
- 農地相談についての雑感
- 瑕疵か契約不適合か 品確法は、改正民法に用語を合わせるべきである
- 外国人受入れ要件としての日本語能力の重要性
- 相続法改正の追加試案について
- 民法(債権法)改正
- 相続人不存在と不在者の話
- 財産分与の『2分の1ルール』を修正する事情について
- 離婚を引き金とする貧困問題と事情変更による養育費の変更
- 建物漏水事故の増加と漏水事故に関する終局的責任の帰趨
- 働き方改革は売上を犠牲にする?
- 次期会社法改正に向けた議論状況
- 消費者契約法改正と「クロレラチラシ配布差止等請求事件最高裁判決(最判H29.1.24) 」の及ぼす影響
- 「買主、注意せよ」から「売主、注意せよ」へ
- 障害福祉法制の展望
- 評価単位について
- 止まない「バイトテロ」
- 新行政不服審査法の施行について
- JR東海認知症事件最高裁判決について
- 不動産業界を変容させる三本の矢
- 経営支配権をめぐる紛争について
- マンションにおける管理規約
- 相続法の改正
- 消防予防行政の執行体制の足腰を強化することが必要
- 最近の地方議会の取組み
- 空き家 どうする?
- 個人情報保護法、10年ぶりの改正!
- 最近の事業承継・傾向と対策
- ネーム・アンド・シェイムで過重労働は防止できるのか
- 離婚認容基準の変化と解決の視点
- 境界をめぐって
- 妻の不倫相手の子に対しても養育費の支払義務がある?
- 個別労働紛争解決のためのアドバイス
執筆者

山田 猛司やまだ たけじ
司法書士
略歴・経歴
全国公共嘱託登記司法書士協会協議会会長
(公社)東京公共嘱託登記司法書士協会相談役
電子政府推進員(総務省)
東京経済大学現代法学部大学院「登記手続法研究」非常勤講師
成蹊大学法学部「不動産登記法」非常勤講師
駒沢大学法学研究所実務家コース「不動産登記法」指導員
<主な著作>
「会社分割と根抵当権」東京司法書士協同組合/平成16年・単著
「不動産登記はこう変わった!Q&A速報版」セルバ出版/平成16年・共著
「新不動産登記関係法令とその読み解き方」セルバ出版/平成17年、平成18年改訂・編著
「新不動産登記の改正実務Q&A」セルバ出版/平成18年・共著
「ケース別不動産取引登記の実務」新日本法規出版・加除式/平成21年・共著
「根抵当権の元本確定・実行」(『新担保・執行法講座第3巻』民事法研究会)/平成22年・佐藤歳二他編
「不動産登記法 半ライン申請特別講座」「極!不動産登記法」日本リーガルDVD講座/平成22年
「未処理・困難登記をめぐる実務」新日本法規出版/平成27年・編著
「抵当権・根抵当権に関する登記と実務」日本加除出版/平成28年・単著
「不動産 権利者の調査・特定をめぐる実務」新日本法規出版/平成31年・編著
執筆者の記事
執筆者の書籍
-
-
団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス -
Copyright (C) 2019
SHINNIPPON-HOKI PUBLISHING CO.,LTD.