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民事2018年09月11日 借地に関する民法改正 発刊によせて執筆者より 執筆者:樅木良一

 ご存知のように民法の債権法部分が大幅に改正され、2020年4月1日から施行されます(以下、この民法改正を「債権法改正」といいます)。
 賃貸借契約も条文が変更されています。ただ、今回の債権法改正において、賃貸借契約部分の変更は、その多くが従前の判例法理や解釈を明文化したものです。
 たとえば、従前から賃貸目的物の所有権が移転し、賃借権が対抗要件を備えている場合には、明文はありませんでしたが、賃貸人たる地位は、特段の事情のない限り、賃借人の承諾なく当然に賃貸目的物の新所有者に移転するとされてきました(最高裁昭和39年8月28日判決(民集18巻7号1354頁))。
 また、賃貸借に伴って交付される敷金につきましても、明文はありませんでしたが、賃貸人の地位が移転した場合には、旧賃貸人から新賃貸人に移転し、適法に賃借権が譲渡された場合には、敷金は承継せず、旧賃借人に返還すべきとされてきました(賃貸人につき、大審院昭和5年7月9日判決(大民集9巻839頁)、賃借権につき、最高裁昭和53年12月22日判決(民集32巻9号1768頁))。
 債権法改正においては、これら明文のなかったものを明文化しました。
 賃貸人たる地位の移転は、その改正民法605条の2第1項で「前条、借地借家法(平成3年法律第90号)第10条又は第31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。」と規定し、敷金は同条第4項で「第1項又は第2項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、第608条の規定による費用の償還に係る債務及び第622条の2第1項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する。」と規定されています。
 他方で、従前の判例法理とは異なる規定がされたものもあります。
 上記賃貸人たる地位の移転の場面において、従前は、賃貸目的物の売買において、売買当事者間で賃貸人たる地位を移転させない(旧所有者に賃貸人たる地位を残して、旧所有者・新所有者間で新たな賃貸借契約等を締結する等)という合意をした場合、その合意は、賃貸人たる地位を移転させない「特段の事情」に該当するかという問題について、判例は、当事者間の合意だけでは、「特段の事情」には該当しないと判断していました(最高裁平成11年3月25日判決(判時1674号61頁))。これは、合意によって移転を認めないとすると賃借人は、賃貸目的物の譲渡により、転借人となり、不安定な地位に置かれることになる(旧所有者・新所有者の賃貸借契約が債務不履行等で解除された場合には、退去しなければならなくなる等)ためです。
 しかし、債権法改正では、その改正民法605条の2第2項で「前項の規定にかかわらず、不動産の譲渡人及び譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。」と規定し、当事者の合意によって、賃貸人たる地位を移転させないことを認めました。これは、近年、賃貸物件である不動産を小口化して商品として販売する事例がありますが、この場合にもし賃貸人たる地位を旧所有者に留保できないとなると、小口の投資家(不動産の共有者)が、賃貸人たる地位まで承継してしまうことになってしまい不都合が生じるとの意見等を考慮したものと思われます。
 ただ、前出の最高裁平成11年3月25日判決が懸念していた賃借人の地位が不安定になるとの問題は生じますので、改正民法605条の2第2項はその後段において、「この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する。」として、旧所有者・新所有者間の賃貸借契約が終了した場合において、賃借人の保護を図っています。
 不動産の賃貸借において、問題となるものの多くが特別法である借地借家法の適用を受けますが、上記の通り民法が適用される部分も多くありますので、今回の債権法改正は、不動産の賃貸借契約においても注意が必要になります。

(2018年9月執筆)

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