カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

民事2016年02月26日 相続法の改正 発刊によせて執筆者より 執筆者:近藤ルミ子

 平成27年4月に法制審議会民法(相続関係)部会が設置され、相続法の改正に向けての議論が始まっている。相続法は、戦後最大の改革となった家督相続の廃止に始まり、昭和37年、昭和55年、平成11年及び平成25年にそれぞれ改正が行われた。直近の改正は、非嫡出子の法定相続分を嫡出子のそれの2分の1とする民法900条4号ただし書前段が「遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していた」とする最高裁の判断(最決平25・9・4民集67・6・1320)を受けたものである。
 非嫡出子の法定相続分については、寄与分制度の新設や配偶者の法定相続分の引き上げ等を内容とする昭和55年の改正時に議論の対象となっていたが、改正意見が圧倒的多数とまでには至らなかったとして、改正要綱から外された経緯がある。平成7年には、非嫡出子の法定相続分に関する上記規定は憲法14条1項に違反しないとする最高裁の決定(最決平7・7・5民集49・7・1789)があり、以後同決定を引用した最高裁の合憲判断が続いていた。しかし、これらの最高裁の判断には、いずれも反対意見が付されていた。平成7年の上記決定においてすら、5名の裁判官が反対意見を述べており、社会状況や国民の意識等の変化、国際環境の変化等を指摘した上で、非嫡出子と嫡出子の法定相続分の差異について疑問を呈する補足意見も述べられている。また、平成8年に法制審議会民法部会で決定された「民法の一部を改正する法律案要綱」では、非嫡出子の法定相続分は嫡出子のそれと同等とするとされていた(同法案は国会提出が見送られた。)。このような非嫡出子の法定相続分に関する司法判断や立法の動きは、晩婚・非婚化、少子・高齢化、非嫡出子の出生数の増加等の社会状況を背景として、婚姻や家族の形態に関する国民の意識が多様化してきていることの影響が大きいといわれている。さらに、日本が批准した「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(昭和54年条約第7号)や「児童の権利に関する条約」(平成6年条約第2号)には、いずれも、児童が出生によっていかなる差別も受けない旨の規定が設けられおり、これらの条約に基づき設置されている委員会からの非嫡出子に関する差別規定の削除等の勧告の影響も大きかったことが指摘されている。平成25年の最高裁大法廷の決定及び法改正は、日本社会に定着している法律婚制度を尊重しつつも、上記のような社会状況や国民意識の変化に伴って、自ら選択する余地のない出生の事実を理由とする不利益は許されないとする考えが確立した結果として理解することができる。
 平成25年の改正によって削除された規定は、法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図ることを目的とするものであった。この規定の削除に伴い、法律婚の尊重とのバランスを図るため、配偶者保護の観点からの相続法の見直しが必要となったことや、社会の高齢化が進み、高齢配偶者の生活保障の必要性が高まっていることなどの事情がこの度の相続法改正の動きに繋がったとされている。部会では、①配偶者の居住権を法律上保護するための方策、②配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現、③寄与分制度の見直し、④遺留分制度の見直し、⑤可分債権の遺産分割における取扱い等のその他の見直しが議論されている。社会の高齢化を背景事情として、被相続人死亡後の配偶者の生活保障の必要性は高く、被相続人と相続人間の合理的意思解釈に基づき相続人の居住権を確保した判例法理(最判平8・12・17民集50・10・2778)を超えて、法定の権利として配偶者の居住権を認める意味は大きい。また、身体的、精神的負担が大きい高齢者の介護について、相続人間の実質的公平を図る観点から、寄与分制度の見直しをすることも重要であろう。しかし、他方、遺産分割において遺産形成等に対する配偶者の貢献度を考慮する方策については、紛争の困難化に繋がる恐れが高く、制度化は疑問であるし、遺留分制度の見直しの内容についても、多くの問題点が考えられる。相続法改正の議論が社会状況の変化に適合し、かつ、実務的に機能する制度の確立に繋がることを期待したい。

(2016年2月執筆)

発刊によせて執筆者より 全69記事

  1. 相続問題に効く100の処方箋
  2. 相続土地国庫帰属制度の利活用促進の一助になれば
  3. 患者と医療従事者とのより望ましい関係の構築を願って
  4. 遺言・遺産分割による財産移転の多様化と課税問題
  5. 専門職後見人の後見業務
  6. 不動産の共有、社会問題化と民法改正による新しい仕組みの構築
  7. 登記手続の周知
  8. 育児・介護休業制度に対する職場の意識改革
  9. メンタルヘルスはベタなテーマかもしれないけれど
  10. 持続可能な雇用・SDGsな労使関係
  11. 自動車産業における100年に1度の大変革
  12. 中小企業の事業承継の現状と士業間の連携
  13. 消費税法に係る近年の改正について
  14. コーポレートガバナンスと2つのインセンティブ
  15. 労働者の健康を重視した企業経営
  16. 被害者の自殺と過失相殺
  17. <新型コロナウイルス>「株主総会運営に係るQ&A」と中小企業の株主総会
  18. 意外と使える限定承認
  19. 保育士・保育教諭が知っておきたい法改正~体罰禁止を明示した改正法について~
  20. 筆界と所有権界のミスマッチ
  21. 相続法改正と遺言
  22. 資格士業の幸せと矜持
  23. 労働基準法改正への対応等、ケアマネジャーに求められる対応は十分か
  24. 人身損害と物的損害の狭間
  25. <新債権法対応>契約実務における3つの失敗例
  26. 新債権法施行へのカウントダウン - 弁護士実務への影響 -
  27. 不動産売買における瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換の影響
  28. 子を巡る紛争の解決基準について
  29. 所有者不明土地問題の現象の一側面
  30. 相続法の大改正で何が変わるのか
  31. 民法改正による交通事故損害賠償業務への影響
  32. 「相手が不快に思えばハラスメント」の大罪
  33. 身体拘束をしないこと
  34. 合同会社の設立時にご検討いただきたい点
  35. 社会福祉法人のガバナンスが機能不全している実態が社会問題に
  36. 借地に関する民法改正
  37. ただの同棲なのか保護すべき事実婚なのか
  38. 農地相談についての雑感
  39. 瑕疵か契約不適合か 品確法は、改正民法に用語を合わせるべきである
  40. 外国人受入れ要件としての日本語能力の重要性
  41. 相続法改正の追加試案について
  42. 民法(債権法)改正
  43. 相続人不存在と不在者の話
  44. 財産分与の『2分の1ルール』を修正する事情について
  45. 離婚を引き金とする貧困問題と事情変更による養育費の変更
  46. 建物漏水事故の増加と漏水事故に関する終局的責任の帰趨
  47. 働き方改革は売上を犠牲にする?
  48. 次期会社法改正に向けた議論状況
  49. 消費者契約法改正と「クロレラチラシ配布差止等請求事件最高裁判決(最判H29.1.24) 」の及ぼす影響
  50. 「買主、注意せよ」から「売主、注意せよ」へ
  51. 障害福祉法制の展望
  52. 評価単位について
  53. 止まない「バイトテロ」
  54. 新行政不服審査法の施行について
  55. JR東海認知症事件最高裁判決について
  56. 不動産業界を変容させる三本の矢
  57. 経営支配権をめぐる紛争について
  58. マンションにおける管理規約
  59. 相続法の改正
  60. 消防予防行政の執行体制の足腰を強化することが必要
  61. 最近の地方議会の取組み
  62. 空き家 どうする?
  63. 個人情報保護法、10年ぶりの改正!
  64. 最近の事業承継・傾向と対策
  65. ネーム・アンド・シェイムで過重労働は防止できるのか
  66. 離婚認容基準の変化と解決の視点
  67. 境界をめぐって
  68. 妻の不倫相手の子に対しても養育費の支払義務がある?
  69. 個別労働紛争解決のためのアドバイス

執筆者

近藤 ルミ子こんどう るみこ

弁護士、元東京家裁判事

略歴・経歴

弁護士(第一東京弁護士会所属)
昭和55年 新潟地裁判事補
平成 2年 仙台地裁判事
平成24年7月 定年退官(東京家庭裁判所所長代行)
平成25年 弁護士登録

〔主 著〕
『裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分』(共編)〔新日本法規出版〕
『相続における承認・放棄の実務』(共編)〔新日本法規出版〕
『家事事件処理手続の改革』(新・アジア家族法三国会議編)〔日本加除出版〕
『子どものための法律と実務』(共著)〔日本加除出版〕
『講座・実務家事審判法 1 (総論)』(共著)〔日本評論社〕
『夫婦・親子215題』(共著)〔判例タイムズ社〕
『遺産分割・遺言215題』(共著)〔判例タイムズ社〕
他多数

執筆者の記事

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索