民事2019年03月08日 子を巡る紛争の解決基準について 発刊によせて執筆者より 執筆者:森公任 森元みのり
家族、夫婦、親子の在り方に関する社会の見方は大きく変動しています。まず、離婚が珍しいことではなくなりました。共働き夫婦が増え、男性の育児参加も浸透してきました。その結果、離婚時には男性も親権や監護権を本気で求めるケースが増え、面会交流に対する意識も高まっています。また、ハーグ条約締結の影響もあり、欧米で実施されている共同親権・共同監護を日本でも実現しようという論調もあります。
こうした流れの中で、家庭裁判所の事件、特に面会交流を中心とする子を巡る事件数はこの10年間で急増しました。その間、子を巡る問題の解決基準も日々刻々と変化しているというのが現場の感触です。
例えば面会交流に関し、平成20年代中盤頃は、家庭裁判所からも交替監護やそれに近い形の面会交流が推奨されることがありました。面会交流は多ければ多いほど良い、という雰囲気も一部にありました。しかし間もなく、無理を押して合意した面会交流が実施できなくなり、再調停、間接強制、慰謝料請求訴訟などに発展するケースが増えてきました。親同士が争い続けながら面会交流を実施しても子どもにとって有益とはなり難く、結果として面会交流が縮減に向かうケースも目立つようになっています。他方において、離婚時には親権・監護権や面会交流を強く求めていた非監護親が、裁判が終わると手のひらを返したように子どもに興味がなくなり、面会も養育費も途絶えがちになるという話も聞きます。そのため最近は、まずは父母に面会交流の意義を理解してもらうことにいっそう注意が向けられ、子ども主体の解決がこれまで以上に模索されるようになっていると感じます。
親権・監護権に関していえば、「母性優先」という言葉は使われなくなり、「主たる監護者」が誰であったかが見られるようになりました。かつ、夫婦共働きの家庭などでは、どちらも等しく監護に貢献していると認定されるケースも多くなっています。これに伴い、別居に際して子どもを連れて出る態様によっては、他方の親の監護権を侵害したとして重く見られる判断も増えているようです。
このように、子を巡る事件の解決基準は比較的短期間のうちに大きく変動します。家事事件に携わる弁護士としては、裁判所の判断基準に関する最新の状況によく通じておくことが大切です。
一方、離婚や別居に際して子どもに関して取り決めることは、その状況で父母が子どものために備え得る最善のことであるべきです。「子どもにとって最善のこと」が時代によって大きく変わるわけではなく、「父母から愛される必要」という根本はどの子どもにも共通であり、それをどのような形で実現するかは個々の子どもの個性や意思、背景や状況に応じて柔軟に判断すべきことと思われます。しかし、「言うは易く行うは難し」です。我々大人は、家族のトラブルで子どもたちにかかる負担を最小限に抑えるよう、責任をもって解決に当たる必要があります。
(2019年3月執筆)
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