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企業法務2022年09月22日 育児・介護休業制度に対する職場の意識改革 発刊によせて執筆者より 執筆者:馬場三紀子

 日本の育児休業制度の歴史をみると、昭和47年制定の「勤労婦人福祉法」において、育児休業制度が事業主の努力義務として記載されていますが、昭和50年に成立した「義務教育諸学校等の女子教職員及び医療施設、社会福祉施設等の看護婦、保母等の育児休業に関する法律」が初めての育児休業法でした。しかし、その対象者は教員、看護婦、保母等の特定職種の女性公務員に限られていました。その後、平成4年4月1日に一般労働者を対象にした「育児休業等に関する法律」が施行され、平成11年4月からは介護休業制度を義務化して「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(育児・介護休業法)が施行されました。平成13年には、休業を申出し又は休業したことを理由とする解雇の禁止に加えて、その他不利益取扱いが禁止されます。その後も改正を重ね、平成17年4月から対象者を一定の条件に該当した有期契約労働者に拡大し、平成22年にはパパ・ママ育休プラス制度が創設されました。また、平成29年10月からは子が2歳になるまで育児休業の延長が可能となっています。

 このような状況の中、第1子出産前後の女性の約5割が退職しており(「『第1子出産前後の女性の継続就業率』及び出産・育児と女性の就業状況について」(平成30年11月内閣府男女共同参画局))、離職理由をみると「仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立の難しさで辞めた」が2番目に多く、当該理由については「勤務先に育児との両立を支援する雰囲気がなかった」が全体の41.3%を占めています(「令和2年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業 報告書」(株式会社日本能率協会総合研究所、令和3年3月))。

 1年ほど育児休業を取得した後に職場に戻ってきたが、子供の病気などでしばしば休まざるをえない女性労働者にとって、「またか」という上司や同僚の態度は就業継続の難しさを感じさせるものでしょう。

 また、介護をしている者を年齢階級別にみると、男性は「55~59歳」が87.8%、女性は「40歳~49歳」が68.2%と最も高くなっており(「平成29年就業構造基本調査 結果の概要」(総務省統計局、平成30年7月13日))、介護離職経験者が「手助・介護」を機に仕事を辞めた理由については、「仕事と「手助・介護」の両立が難しい職場だったため」が59.4%と最も多くなっています(「令和元年度 仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(株式会社NTTデータ経営研究所、令和2年3月))。

 特に人員に余裕のない中小企業において介護休業は取得しづらい、取得できない状況にあるでしょう。

 しかし、仕事に対するモチベーションの高い労働者の育児を理由とする離職、管理職や基幹業務を行う女性労働者の介護を理由とする離職は、企業にとって大きな損失です。

 令和4年10月から男性の育児休業取得促進等に向けて「育児・介護休業法」が改正されましたが、いくら制度を充実させても職場で円滑に運用されなければ、トラブルの原因となってしまいます。加えて、企業における「ワーク・ライフ・バランス」(仕事と生活の調和)の取組は、一人一人、事情の異なる労働者への柔軟な対応が求められます。

 また、制度が拡充する一方で、職場にはまだ夫が働き、妻が家庭での役割を担うという性別役割分担意識が色濃く残っています。事業主行動計画策定指針(平成27年11月20日内閣官房・内閣府・総務省・厚生労働省告示第1号、令和4年7月8日改正)に、こうした意識や仕事と家庭の両立に対する不寛容な職場風土は、両立支援制度を利用する上での障壁や様々なハラスメントの背景にもなりやすく、介護休業も含めて、男女ともに育児等の家庭責任を果たしながら、職場においても貢献していくという方向へ社会・職場双方において意識改革を進めていくことが求められるとあります。

 今回の法改正による男性の積極的な育児休業の取得をきっかけに、企業は労働者それぞれが希望するライフスタイルを尊重し、多様な働き方を認めることで生産性の向上を実現すべきでしょう。

(2022年9月執筆)

発刊によせて執筆者より 全69記事

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  2. 相続土地国庫帰属制度の利活用促進の一助になれば
  3. 患者と医療従事者とのより望ましい関係の構築を願って
  4. 遺言・遺産分割による財産移転の多様化と課税問題
  5. 専門職後見人の後見業務
  6. 不動産の共有、社会問題化と民法改正による新しい仕組みの構築
  7. 登記手続の周知
  8. 育児・介護休業制度に対する職場の意識改革
  9. メンタルヘルスはベタなテーマかもしれないけれど
  10. 持続可能な雇用・SDGsな労使関係
  11. 自動車産業における100年に1度の大変革
  12. 中小企業の事業承継の現状と士業間の連携
  13. 消費税法に係る近年の改正について
  14. コーポレートガバナンスと2つのインセンティブ
  15. 労働者の健康を重視した企業経営
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  23. 労働基準法改正への対応等、ケアマネジャーに求められる対応は十分か
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  60. 消防予防行政の執行体制の足腰を強化することが必要
  61. 最近の地方議会の取組み
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  65. ネーム・アンド・シェイムで過重労働は防止できるのか
  66. 離婚認容基準の変化と解決の視点
  67. 境界をめぐって
  68. 妻の不倫相手の子に対しても養育費の支払義務がある?
  69. 個別労働紛争解決のためのアドバイス

執筆者

馬場 三紀子ばば みきこ

特定社会保険労務士
元愛知労働局紛争調整委員
CFP®
内部監査士
愛知県ワーク・ライフ・バランス普及コンサルタント

略歴・経歴

1990年  馬場社会保険労務士事務所 開業
2007年  特定社会保険労務士 付記
2009年~ 社労士会労働紛争解決センター愛知 あっせん人
2016年~ 愛知県雇用労働相談センター 相談員

<主な著書>
「職場のトラブル相談ハンドブック」(共著 新日本法規出版)
「誰にもわかる社会生活六法」(共著 新日本法規出版)
「非正規社員をめぐるトラブル相談ハンドブック」(編集 新日本法規出版)
「疾病を抱える社員の労務管理アドバイス-メンタルヘルス・がん・糖尿病・脳卒中-」(共編 新日本法規出版)

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