紛争・賠償2024年10月28日 発刊によせて 発刊によせて執筆者より 執筆者:藤井裕子
本書を準備し始めたのはまだ,2023年7月の道路交通法改正前でした。その当時から出版までの間に明らかになっていたマイクロモビリティに関する諸問題について,情報収集等も行いつつ整理して本書で解説をしたのですが,最近になって新たに二点ほど,注目すべき問題が出てきたと考えています。
一点目は電動アシスト自転車を改造する車両に関しての問題です。本書第1章設問5でも解説していますが,電動アシスト自転車はアシスト基準が決められていて,当該アシスト基準に改造することが容易でない構造であることが要件となっています。
では,製造時から販売時には適正なアシスト基準であったとしても,改造が容易ではないとはいえ,アシスト基準を超える原動機の作用を持たせる改造をした場合,当該電動アシスト自転車のアシスト基準を超える改造車両は,法的にはどのように扱われるのでしょうか。
本書では,マイクロモビリティの道路運送車両法や道路交通法での車両区分について検討をしていますが,電動アシスト自転車のアシスト基準を超える改造車両は,道路運送車両法上は,原動機付自転車(第一種原動機付自転車ないし第二種原動機付自転車),定格出力によっては自動車(二輪の軽自動車,二輪の小型自動車)に該当する可能性があります。また,道路交通法上は,軽車両である自転車ではなく,原動機付自転車(一般原動機付自転車),定格出力等によっては自動車(普通自動二輪車,大型自動二輪車)になる可能性があります。
そこで,改造前は,適正なアシスト比率で電動アシスト自転車であり個人賠償責任保険に加入していたとしても,改造を行った状態で道路を運行していた場合には,個人賠償責任保険の対象外になるのと同時に,自賠責保険の付保が義務付けられる車両になると考えられます。
この点,改造機器の脱着が簡易な場合には改造の有無が事故そのままに保全されない可能性もあり,電動アシスト自転車なのか,それとも,原動機付自転車ないし自動車に該当するのかにつき,事実認定に争いが出る場合が考えられ,初動の捜査や保全が特に重要になると考えられます。
仮に,電動アシスト自転車のアシスト基準を超える改造車両で歩道を運行した場合に交通事故を起こした場合には,被害が大きくなる可能性が高いですから,今後,当該問題につき,より一層の検討が必要と考えます。
二点目は,2025年11月から排ガス規制が新しくなることに関連して,125cc以下の道路交通法上は現時点では自動車である区分(道路運送車両法上の第二種原動機付自転車)につき,一定の要件を満たせば原動機付自転車として扱う方針が打ち出されている点です。道路交通法施行規則改正案の具体的な内容はこれから出てくると思われますし,道路運送車両法施行規則に関しても改正される可能性があります。場合によっては車両区分を定める定格出力等も変更になることもあり得ますので,今後の法令改正を注視していきたいと考えております。
本書は,マイクロモビリティに関する基礎的な知識を解説し,過失相殺率を検討するたたき台としてマイクロモビリティに特有な事故類型の整理を試みたものです。マイクロモビリティの事案を担当する方々の議論のたたき台として,業務に少しでも役立てることができるのであれば幸いです。
(2024年10月執筆)
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執筆者
藤井 裕子ふじい ゆうこ
弁護士
略歴・経歴
愛知県出身。
愛知県立明和高等学校卒業,広島大学総合科学部総合科学科自然環境研究コースから大阪大学法学部法学科編入・卒業,愛知大学法科大学院卒業。
東京弁護士会に所属。
フリージア法律事務所所属。
公職関係
平成26年 東京弁護士会常議員議員,日本弁護士連合会代議員
平成25年4月~平成31年3月 令和4年4月~ 公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部委員
平成30年12月~ 公益財団法人日弁連交通事故相談センター本部研修委員
平成30年4月~ 令和6年3月 損害保険料率算出機構自賠責保険(共済)審査会審査委員
平成25年4月~ 東京弁護士会 裁判員制度センター副委員長
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