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民事2018年06月15日 ただの同棲なのか保護すべき事実婚なのか 発刊によせて執筆者より 執筆者:平田厚

 現代における家族のあり方は、非常に多様化しています。人工生殖や同性婚の問題を含め、非常に多岐に亘る多様性が現れています。さまざまな多様性の問題を寛容の精神をもって受け止め、可能な限りで法的な保護を付与していくという思考方法が求められているということになるでしょう。
 ただし、家族関係は、一方の考え方だけを保護するというわけにはいきません。家族を形成する自由は、他方の考え方をも保護するという方向で尊重しなければなりません。そうすると、一方が関係性の継続を求めていたとしても、他方がそれを全く望んでいないとすれば、一律に関係性の拘束を認めるわけにはいかないことになります。
 特に近年の家族法の教科書では、フランス法における自由結合関係が記述され、それは当事者同士が相互拘束を求めていないのであるから、一方の請求によって国家が関係性の拘束を認めるのは矛盾であると説かれるようになっています。しかし、どのような関係であれば国家による関係性の保護が求められ、どのような関係であればそのような保護は求められないと言えるのか、必ずしも明確ではありません。
 家族法においては、古くから意思を尊重するのか事実を尊重するのかという大きな枠組みでの考え方の対立があります。婚姻外関係についても、その大きな枠組みの中で捉えられると思います。ただし、多くの場合、意思的要素が重要であるが、どのような意思であったのかを明確にするためには事実的要素も無視はできないという関係にありますから、意思か事実かという二項対立的な図式では問題を解決できません。
 そうだとすれば、多くの事例について、裁判所がどのような保護基準を設定してきたかを検討することによって、現段階での保護基準を明確にしていくべきでしょう。意思を尊重するという出発点に立つとしても、当事者がどのような意思をもって関係性を構築してきたのか、当事者双方の意思は一致していたのか、一致していないとすればどちらの意思がより保護に値すると考えられるのかについて、問題となる局面ごとに考えなければなりません。
 当初の意思とその後の意思とが異なっている場合には、どの段階でのどのような意思が尊重されることになるのかが重要になると思います。また、意思は継続しているとしても、客観的状態の保護の必要性が変動することもありえます。特に重婚的内縁関係にある場合には、法律婚が破綻していない段階では、重婚的内縁関係よりも法律婚を保護すべきでしょう。しかし、法律婚が破綻している段階では、重婚的内縁関係を保護すべき段階にあると思います。
 したがって、法律婚関係にない関係を適切に保護していくには、考えるべき要素はたくさんありそうです。もしそうだとすれば、個別事例を精査して、どのような場合にどのような理由で保護されるのかを検討してみる必要があると思います。

(2018年6月執筆)

発刊によせて執筆者より 全69記事

  1. 相続問題に効く100の処方箋
  2. 相続土地国庫帰属制度の利活用促進の一助になれば
  3. 患者と医療従事者とのより望ましい関係の構築を願って
  4. 遺言・遺産分割による財産移転の多様化と課税問題
  5. 専門職後見人の後見業務
  6. 不動産の共有、社会問題化と民法改正による新しい仕組みの構築
  7. 登記手続の周知
  8. 育児・介護休業制度に対する職場の意識改革
  9. メンタルヘルスはベタなテーマかもしれないけれど
  10. 持続可能な雇用・SDGsな労使関係
  11. 自動車産業における100年に1度の大変革
  12. 中小企業の事業承継の現状と士業間の連携
  13. 消費税法に係る近年の改正について
  14. コーポレートガバナンスと2つのインセンティブ
  15. 労働者の健康を重視した企業経営
  16. 被害者の自殺と過失相殺
  17. <新型コロナウイルス>「株主総会運営に係るQ&A」と中小企業の株主総会
  18. 意外と使える限定承認
  19. 保育士・保育教諭が知っておきたい法改正~体罰禁止を明示した改正法について~
  20. 筆界と所有権界のミスマッチ
  21. 相続法改正と遺言
  22. 資格士業の幸せと矜持
  23. 労働基準法改正への対応等、ケアマネジャーに求められる対応は十分か
  24. 人身損害と物的損害の狭間
  25. <新債権法対応>契約実務における3つの失敗例
  26. 新債権法施行へのカウントダウン - 弁護士実務への影響 -
  27. 不動産売買における瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換の影響
  28. 子を巡る紛争の解決基準について
  29. 所有者不明土地問題の現象の一側面
  30. 相続法の大改正で何が変わるのか
  31. 民法改正による交通事故損害賠償業務への影響
  32. 「相手が不快に思えばハラスメント」の大罪
  33. 身体拘束をしないこと
  34. 合同会社の設立時にご検討いただきたい点
  35. 社会福祉法人のガバナンスが機能不全している実態が社会問題に
  36. 借地に関する民法改正
  37. ただの同棲なのか保護すべき事実婚なのか
  38. 農地相談についての雑感
  39. 瑕疵か契約不適合か 品確法は、改正民法に用語を合わせるべきである
  40. 外国人受入れ要件としての日本語能力の重要性
  41. 相続法改正の追加試案について
  42. 民法(債権法)改正
  43. 相続人不存在と不在者の話
  44. 財産分与の『2分の1ルール』を修正する事情について
  45. 離婚を引き金とする貧困問題と事情変更による養育費の変更
  46. 建物漏水事故の増加と漏水事故に関する終局的責任の帰趨
  47. 働き方改革は売上を犠牲にする?
  48. 次期会社法改正に向けた議論状況
  49. 消費者契約法改正と「クロレラチラシ配布差止等請求事件最高裁判決(最判H29.1.24) 」の及ぼす影響
  50. 「買主、注意せよ」から「売主、注意せよ」へ
  51. 障害福祉法制の展望
  52. 評価単位について
  53. 止まない「バイトテロ」
  54. 新行政不服審査法の施行について
  55. JR東海認知症事件最高裁判決について
  56. 不動産業界を変容させる三本の矢
  57. 経営支配権をめぐる紛争について
  58. マンションにおける管理規約
  59. 相続法の改正
  60. 消防予防行政の執行体制の足腰を強化することが必要
  61. 最近の地方議会の取組み
  62. 空き家 どうする?
  63. 個人情報保護法、10年ぶりの改正!
  64. 最近の事業承継・傾向と対策
  65. ネーム・アンド・シェイムで過重労働は防止できるのか
  66. 離婚認容基準の変化と解決の視点
  67. 境界をめぐって
  68. 妻の不倫相手の子に対しても養育費の支払義務がある?
  69. 個別労働紛争解決のためのアドバイス

執筆者

平田 厚ひらた あつし

明治大学専門職大学院法務研究科教授・弁護士

略歴・経歴

昭和35年5月   鹿児島県鹿児島市生まれ
昭和54年3月   鹿児島県立鶴丸高校卒業
昭和60年3月   東京大学経済学部経済学科卒業
昭和62年11月 司法試験合格
平成2年4月   弁護士登録
平成8年9月   ベルギー、ルーヴァンカソリック大学留学
平成16年4月   明治大学法科大学院専任教授就任
平成24年1月   日比谷南法律事務所設立

〔著 書〕
『新しい福祉的支援と民事的支援―英国コミュニティケア改革とわが国の社会福祉基礎構造改革―』(筒井書房、2000)
『増補 知的障害者の自己決定権』(エンパワメント研究所、2002)
『家族と扶養―社会福祉は家族をどうとらえるか―』(筒井書房、2005)
『これで納得!成年年齢―18歳成人論の意味と課題―』(ぎょうせい、2009)
『親権と子どもの福祉―児童虐待時代に親の権利はどうあるべきか―』(明石書店、2010)
『虐待と親子の文学史』(論創社、2011)
『権利擁護と福祉実践活動―概念と制度を問い直す―』(明石書店、2012)
『建築請負契約の法理』(成文堂、2013)
『借地借家法の立法研究』(成文堂、2014)
『プラクティカル家族法―判例・理論・実務―』(日本加除出版、2014)
『福祉現場のトラブル・事故の法律相談Q&A』(清文社、2015)
『新しい相続法制の行方』(金融財政事情研究会、2015)
『審判例にみる 家事事件における事情変更』(新日本法規出版、2017)
『判決例・審判例にみる 婚姻外関係 保護基準の判断―不当解消・財産分与・死亡解消等―』(新日本法規出版、2018)
『〔改正相続法対応〕Q&A相続財産をめぐる第三者対抗要件』(新日本法規出版、2019)
『介護事故の法律相談』(青林書院、2019)
『子の親権・監護・面会交流の法律相談』(青林書院、2019)
『成年後見ハンドブック』(法曹会、2020)
『民事における意思能力の判断事例集』(新日本法規出版、2020)
『婚姻費用・養育費・財産分与の法律相談』(青林書院、2020)
『子の利益に適う離婚協議』(第一法規、2021)
『終活と相続・財産管理の法律相談』(青林書院、2022)
『遺言執行と条項例の法律実務』(青林書院、2022)
『面会交流実施要領から理解する面会交流の条件・条項』(第一法規、2022)
など著書多数

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