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民事2016年11月30日 評価単位について 発刊によせて執筆者より 執筆者:小林登

 相続税・贈与税は、被相続人・贈与者から無償(原則として)で財産が移転することを機として租税を課しています。そのため、相続・遺贈又は贈与に基づき取得した財産についての財産の評価が求められます。

土地の価額

 土地の価額は、一物四価とも一物五価とも言われ、用途に応じた価額があります。
 相続税法第22条(以下「相法22」といいます。)では、相続・遺贈又は贈与により取得した財産の評価について次のように定め、「・・・相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により・・・」として、財産の評価は「時価」により行うことを明確にしています。
 しかし、時価の判断は難しく、個々に時価を求めていたのでは、手続きの煩雑さや費用負担が膨大になる等の問題が発生します。
 そのため、国税庁では財産評価基本通達を策定し、相法22の時価の解釈及び評価の画一性・迅速性・簡便性を図っています。

財産評価基本通達による時価

 財産評価基本通達1(2)において、「・・・不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。」と財産評価基本通達に基づき算出した額が相法22における時価であると言い切っています。
 また、財産評価基本通達1(1)では、「財産の価額は、第2章以下に定める評価単位ごとに評価する。」として、財産評価基本通達に基づき評価をする場合には、評価単位をどのように判断するかが求められてきます。
 評価単位については、財産評価基本通達7-2に次のように定められています。
 「土地の価額は、次に掲げる評価単位ごとに評価することとし、土地の上に存する権利についても同様とする。・・・」として、各土地における評価単位を定めています。
 そして、評価単位に基づき算出したそれぞれの土地等の評価額を合計したものが、土地等の評価額ということになります。
 不動産、特に土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」といいます。)は、それぞれに個別性があり、100の土地等について、すべて評価額が異なるといっても過言ではありません。
 このような土地等について、評価単位に基づき評価額を算定していく作業が重要になってきます。

財産評価基本通達を学ぶ理由

 相法22において、財産の価額は「取得の時の時価による」としていることから、時価をどのように算定していくかが求められてきます。時価を求める方法としては、近隣の不動産業者等から売買実例を収集する方法、不動産鑑定士に鑑定評価を依頼する方法等々が考えられます。
 しかし、時価の判断は非常に難しく、時価の算出方法として、安価で統一性をもったものがあるとしたらそれを採用したいというのが一般人の本音のところにあります。通達とは、上級官庁から下級官庁に対する指示・命令です。
 私たち一般の納税者や裁判所までもがこの通達に縛られる必要はありませんが、現実には、この財産評価基本通達を学び、執務の参考としています。
 それは、税務調査等を行うべき国税庁、国税局、税務署の人々が、この財産評価基本通達に基づき時価を算定しているのであれば、更正等誤りの指摘はないだろうという予測可能性が働きます。そのため、私たちは、この財産評価基本通達を学び執務の参考としているわけです。

財産評価基本通達の限界

 財産評価基本通達第5項には、「この通達に評価方法の定めのない財産の価額は、この通達に定める評価方法に準じて評価する。」とされています。また、財産評価基本通達第6項には「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」とされています。これらの規定は、ある面で財産評価基本通達の限界を現わしているものだと思います。
 財産評価基本通達を執務の参考とすることは大変に重要なことですが、この財産評価基本通達が、必ずしも適正時価を現わせないこともあるということは、頭の中に入れておく必要があるということです。この場合は、相法22に定める時価を個々に算定していく必要があると思います。

自問自答と適正時価

 財産評価基本通達に基づき算出した額が、適正時価を現わせているかどうかの判断として、「自分であればこの土地をその評価額若しくはその評価額を8で割り戻した価額で購入するかどうか」を念頭に入れて評価することだと思います。とても、その価額では買えないということになれば、相法22に基づき何らかの方法で、適正時価を判断していくことになります。
 評価額を算出する土地等の大部分は、財産評価基本通達に基づいた評価方法で算出できると思われますが、中には必ずしも適正時価を現わせていないものがあることも頭の中に入れておく必要があります。

(2016年11月執筆)

発刊によせて執筆者より 全69記事

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