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民事2019年03月29日 不動産売買における瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換の影響 発刊によせて執筆者より 執筆者:大川隆之

 2020年4月1日より改正民法が施行され,売買契約における現行民法の瑕疵担保責任は,いわゆる契約不適合責任に改められることになっています。すなわち,改正民法は,伝統的ないわゆる特定物ドグマと決別することを明確にし,不動産のような特定物の引渡しを内容とする債務についても,債務者は,単に現物を引き渡せば足りるというのではなく,契約の内容に適合した欠陥のない物を引き渡す義務を負うという理解を前提に,「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」は,買主は,売主に対し,契約責任として,修補等の追完,代金減額,損害賠償,契約解除を求めることができるとされています(改正民法562条~564条)。
 この改正は,瑕疵がある場合に買主が修補や代金減額を求めることも可能となったという単純なものではなく,特に不動産売買においては大きな影響があると言わざるを得ません。
 改正民法では,法律上の文言として「契約の内容に適合するか否か」が問題となるのですから,まさに当事者が「契約の内容」としてどのような品質の物件を予定していたかが正面から問題となります。これを判断する裁判所は,結局は,「契約書」の記載においてどのような品質を予定していたかを確認することは明らかですから,契約書に特約事項・容認事項を詳細に記載する作業が避けられなくなるでしょう。
 また,「隠れた」瑕疵という要件は削除され,買主が知っている契約不適合であっても売主は責任を負うことがあるとされていますので,その点でも容認事項の詳細化が必要になります。そもそも売主業者や媒介業者が買主に対して宅建業法上の重要事項説明をした事項であっても契約不適合とされてしまう可能性があるのか,その可能性があるならばどこまで重要事項説明書の内容を契約書に物件の品質や容認事項として記載すればよいのか,といった疑問も生じます。
 さらに,現行民法では,瑕疵があってもそれにより「契約をした目的を達することができないとき」でなければ,買主による契約の解除は認められませんでしたが,改正民法はこの要件を設けていません。ただ,債務不履行解除の一般的な要件として,契約不適合が「軽微」であるときは契約を解除できないとするのみです。最近,「不動産取引における傾斜地・がけ地・擁壁の法律と実務」と題する書籍を出版させていただきましたが,その中で,例えばがけ条例を看過した宅地の売買がなされたとしても,擁壁や防護壁を設置すれば契約の目的は達成できるので,買主による契約解除までは認めないとする裁判例が複数出てきます。しかし,かかる契約不適合が「軽微」とまで言えるかは疑問もあり,改正民法施行後は買主による催告解除が認められるケースが増大し,実務が混乱するのではないかとの懸念があります(「軽微」か否かの判断では,契約の目的を達成できるか否かが重要な考慮要素となるとの指摘もありますが,裁判所がどのように判断するかは裁判の集積を待たざるを得ないでしょう)。
 さらに,現在流通している不動産売買契約の書式の多くは,債務不履行解除がなされたときの違約金を売買代金の1~2割とする定めを設けつつ,瑕疵担保責任に基づく解除がなされてもその違約金の定めを適用することは予定していません。しかし,改正民法では,契約不適合がある物件を引き渡すこと自体を債務不履行と考えるのですから,契約不適合を理由に契約が解除された場合は違約金の定めが適用されるのが自然とも言えます。この点は,契約書の書式によって,違約金の定めの適用を明示するもの,適用しないことを明示するもの,契約書の記載だけからは読み取れないものなど,いろいろなものがあり得ますので,個々の取引で契約書の記載を慎重に吟味する必要があるでしょう。
 その他にも契約不適合責任をめぐる多くの疑問点や争点が生じることが予想されており,その結論は裁判の集積を待たざるを得ないのが実情です。ただ,契約書の記載でリスクを分配することにも限界があり,将来的には,売主が不動産全体の詳細調査(広い意味でのいわゆるインスペクション)を実施せざるを得なくなるのではないかとの指摘もあります。

(2019年3月執筆)

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