家族2024年12月20日 最適な贈与契約のために 発刊によせて執筆者より 執筆者:河合厚、前山静夫、古庄夏耶、吉田幸寛

資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税に向けた検討として、平成30年12月に与党税制改正大綱において基本的考え方が示され、その後、令和4年度与党税制改正大綱においては、「今後、諸外国の制度も参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化防止等の観点も踏まえながら、資産移転時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。」と明記されました。令和5年度税制改正において、具体的な改正事項として、資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築等の観点から、①相続時精算課税制度について、暦年課税の基礎控除とは別途、110万円の基礎控除が創設されるとともに、②暦年課税において、贈与を受けた財産を相続財産に加算する期間を相続開始前3年間から7年間に延長し、延長した4年間に受けた贈与のうち総額100万円までは相続財産に加算しないこととされました。
相続時精算課税制度に相続財産に加算されない非課税枠が設けられたこと、暦年課税贈与に係る生前贈与加算の期間が3年から7年に延長されたことは、財産の移転を考えている人の贈与の実行を加速させる働きがあると思料します。
一方、贈与者から受贈者への資産移転を考えるにあたり、贈与税課税については、平成15年に相続時精算課税制度が導入され、暦年課税贈与との二本立てになっていること、また、租税特別措置法では、住宅取得等資金の贈与の特例、教育資金の一括贈与の特例、結婚子育資金の一括贈与の規定が時限立法として規定されていること、これらの贈与は将来、贈与者の相続が開始した時に相続税の計算に影響する場合があること、これらの制度や取扱いを承知して贈与を行わないと、相続税の計算において贈与した財産の価額が加算されるなどして、贈与の効果が減殺される事態を招くことになります。大きな財産を移転する場合には、税負担も大きくなることから、慎重な判断が要求されます。
また、相続税の計算を行うに当たっては、贈与財産の種類によって評価の仕方が異なるなど専門家であっても時間を要することがあります。贈与する財産の価額を適正に評価し、相続税額の計算も踏まえた上で、最適な贈与の方法を決定することは容易ではないのです。
このような状況において、新日本法規出版様から贈与契約に関する書籍の執筆についてのお話をいただきました。実にタイムリーな書籍と考え、お受けすることとしました。民法上、贈与の種類に関しては、定期贈与、負担付贈与及び死因贈与の規定が置かれています。また、法律行為の一般規定として、民法の第1編「総則」第5章「法律行為」に「条件」及び「期限」に関する規定が置かれ、原則として、広く法律行為一般について、当事者が条件及び期限を任意に付加することができるとされています。これらの規定を踏まえ、日常生活において想定される贈与の場面を洗い出し、その贈与に対する私法上の問題点や課税関係を整理しました。実務上の贈与契約書の形式や契約に当たっての記載事項などについては、行政書士が知見を有していることから、税理士と行政書士が実際の贈与を行う際の課題や問題点などを共有し、適宜協議を行いながら発刊まで辿り着いた次第です。
最後に、贈与については口頭でも成立するものの、実際に贈与があったことの証拠として贈与契約書を作成しておくことはとても重要です。本書は贈与契約書を作成するに当たり、その文例をはじめ留意点・贈与時の評価の概要などに言及しておりますので実務を行う際の一助となれば嬉しく思います。
(2024年12月執筆)
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