行政2016年02月22日 最近の地方議会の取組み 発刊によせて執筆者より 執筆者:本橋謙治
これまで、地方議会が裁判の主役となる事例は、政務活動費(以前は政務調査費)に関するものなどが中心でした。しかし、これからは、議会が自ら行う政策提案や議会の運営などについて、直接的、間接的に司法が判断する事例が増えることが考えられます。では、どのような事例が考えられるか、実際にあった事例を示しながら説明しようと思います。
近年の地方議会に対する住民からの意見は、総じて厳しいものとなっています。具体的には、「地方議会の議員の定数が多い」、「地方議会は何をしているのかわからない」、「そもそも地方議会が設置されていること自体に意義があるのか」など、多岐にわたる意見となっています。このような意見が出てくる主な理由は、地方議会が当該地方公共団体において、どのような役割を担っているのかを住民がよく理解していない一方、地方議会もその役割や活動などについて住民に積極的に発信してこなかったためだと思います。
このような住民からの厳しい意見を踏まえ、地方議会では当該地方公共団体の行財政運営に積極的に関与する仕組みを設け、住民が地方議会の活動や意義を理解しやすくなるような取組みが行われています。その代表的な例として、議決事件の追加があります。
地方議会が議決すべき事件は、現在、地方自治法96条1項に規定されています。しかし、住民のニーズの多様化に伴い地方公共団体の行財政運営の範囲も拡大しており、法に規定されている事件のみを議決するだけでは地方議会がその役割を十分に果たしたとはいえなくなりつつあります。このため、地方自治法96条2項を根拠にして、議会基本条例などに地域の実情に応じた議決すべき事件を追加し、議決権の行使を通じて積極的に当該地方公共団体の行財政運営に関与している地方議会もあります。
今後、議決事件を拡大していくことで、従来は執行機関の権限で執行されていた事項が、議会の議決を得なければ執行できない事項となる可能性があります。そうすると、執行機関と議会との間で対立が生じ、場合によっては議会の判断が正しいかどうか司法の場で判断されることが予想されます。
次に、地方議会は、一般質問や議案などの審議を通じて、長をはじめとする執行機関が中立公正な行財政運営をするよう法が認めた様々な権限を行使しています。
これら権限を地方議会が行使する際に必要な手続などを定めているのが、地方自治法、各地方議会の会議規則、委員会条例、傍聴規則です。
このうち、地方自治法における地方議会に関する規定は、執行機関に関する規定に比べて非常に少なく、さらに地方議会の手続や運営に関する詳細な規定も少ないのが実情です。また、各地方議会で定める会議規則や委員会条例も規定する事項には限界があります。
このため、各地方議会では地方議会の自律権を根拠に、地方自治法、会議規則や委員会条例で規定されていない事項について、先例や慣例、申し合わせなどに基づいて議会の運営などを行っています。
しかし、近年住民が、地方公共団体の行財政運営の適否について訴訟を起こすようになってきました。従来は司法の場で判断されることがあまりなかった、執行の前提となる議会の議決の適否(長が提出した権利放棄の事件の議決を行った栃木県さくら市の事例)や審議の適否(長が提出した補正予算を議会が審議未了としたために長が専決処分を行った千葉県白井市の事例)が司法の場で判断される事例が見られるようになっており、今後もこうした事例が生じることが予想されます。
地方議会は、近年の法令遵守の考えであるコンプライアンスを意識しながら、議会の審議、議決をすることが従来以上に求められています。そのためにも従来からの先例や慣例、申し合わせなどを見直していくことが必要です。
(2016年2月執筆)
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