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行政・財政2016年06月29日 新行政不服審査法の施行について 発刊によせて執筆者より 執筆者:越智敏裕

 平成26年に成立した新行政不服審査法(行審法)は、2年の周知期間をおいて、本年4月1日から施行されているが、行政争訟制度を大きく変革しうる新法として注目を浴びている。
 行政不服審査は、行政訴訟と並ぶ行政上の救済手段であるが、行政の自己反省機能、簡易迅速性、費用の低廉、(違法性にとどまらない)不当性審査、行政の専門性の点で、行政訴訟と異なる独自の意義を持ち、分野によっては多用されてきた。
 多岐にわたる改正ポイントのうち特に重要な点に触れておく。
 第一に、不服申立前置の解消である。
 一般に行政不服審査は、行政訴訟の前段階の行政救済手続として位置づけられる。行政事件訴訟法は、不服申立てをするか、直ちに取消訴訟を提起するか、両方の手続を同時にとるかを自由に認める自由選択主義を原則としてきたが、原則と例外が逆転する傾向があった。これが、今次改正で大幅に解消された。
 第二に、審査請求への一元化である。
 旧法下で、不服申立てには、処分庁に再考を求める①異議申立て、処分庁の直近行政庁や第三者機関が審理する②審査請求、法の定める場合に②の裁決を経た後さらに行う③再審査請求があり、審査請求中心主義が取られていた(ただし、不作為については①②いずれもできた)。
新法では①が廃止され、最上級行政庁(大臣等)がより充実した審理を行う新しい②審査請求に統合された。③は整理されて法律に特別の定めがある場合に存続するが、訴訟とは自由選択となる(ただし、例外的に①に代わる再調査請求が創設される分野もある)。
 第三に、審理員制度及び行政不服審査会制度の導入である。
 新法は手続の公正性を高めるべく、審査庁の職員から指名される審理員に手続を主宰させるとともに、第三者機関として行政不服審査会を新設した。審査請求がされると、審理員の下、対審構造で審理がされ、審理員は審査庁の裁決の案を審理員意見書として提出する。審査庁は行政不服審査会に諮問をし、答申を得て、これを踏まえて裁決する。
行政不服審査では、行政訴訟と異なり不当性審査が可能であるが、これまでほとんどされていなかった。審理員・審査会制度の導入により、処分の不当についても充実した審理を期待したい。
 第四に、不服申立期間の延長である。
 従来、審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内にする必要があったが、新法は不服申立期間を3ヶ月に延長するとともに、正当理由による期間徒過を容認した。
 第五に、新法の審理手続は、口頭意見陳述における処分庁等への質問権等の付与、提出書類等の閲覧・謄写、標準処理期間の設定・公表等の手続が充実した。
もっとも行審法は一般法であって、個別法による修正があるため、分野ごとに制度が少しずつ異なる点に注意されたい。
審理員候補者の選定、審理の主宰方法、行政不服審査会の設置や諮問手続、関連条例の制定、処分の際の教示文の変更など、国レベルはもちろん地方でも、新法に対応した体制が動き出している。
 行政訴訟の第一審新受件数が2千件強で推移しているのに対し、総務省行政管理局の調査によれば、不服申立件数は、特殊事情による一時的増加を除くと、おおよそ国レベルで3万件、地方レベルで2万件のオーダーで推移してきた。しかし、これまで法律実務において行政不服審査手続は必ずしも有効に活用されていなかった。当面は試行錯誤もあろうが、新法制定を契機に、簡易迅速かつ安価で、不当性審査をも求めうる行政争訟手続として新審査請求が広く活用されることを期待したい。

(2016年6月執筆)

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