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訴訟・登記2019年04月12日 新債権法施行へのカウントダウン - 弁護士実務への影響 - 発刊によせて執筆者より 執筆者:中村知己

1.新債権法施行まであと1年を切りました!

 新元号「令和」の発表で新たな時代への期待が高まる中,いわゆる債権法改正にかかる改正民法(平成29年法律第44号による改正)の施行が2020年(令和2年)4月1日に迫っています。いよいよ本腰を入れて勉強しなければと感じている弁護士も多いことと思います。
 恥ずかしながら,私自身の当初の認識は,「今回の債権法改正は従来の判例・学説等を明文化することが中心であり,弁護士実務への影響はそう大きくないのではないか。」というものでした。しかしながら,勉強を進めていくうちに,意外に実質的な改正箇所が多いことに気付き,弁護士実務への影響も大きいのではないかと,認識を新たにしました。
 特に,消滅時効に関する改正などは,時効期間(民166~169)はもとより,時効の「中断」が「更新」に改められ(民147ほか),催告や仮差押えなどが中断事由から完成猶予事由(従来の停止事由に相当)に改められる(民149・150)など,用語も実質面も様々な改正がなされており,十分に理解しておかなければ法律相談などにおいて誤った回答をしてしまうおそれがあります。
 また,法定利率が変更されたことは知っていても,訴状のよって書きで,つい「民法所定の年5分の割合による遅延損害金」などと,長年慣れ親しんだフレーズを記載してしまうこともあるかもしれません。考えてみれば,1896年(明治29年)の民法制定時から120年以上もの間,「年5分」で固定されてきた法定利率が,一気に「年3パーセント」にまで下がり,かつ,3年ごとに一定の要件に従って変動する(民404)というのは,それだけでも大きな改正といえるでしょう。

2.新債権法における要件事実

 民法の条文が改正されると,それに伴って要件事実についても変更が生じる場合があります。新債権法には,①従来の判例・学説により認められていた解釈を明文化したもの,②新たな概念・制度を創設したもの,③従来の判例・学説で認められていた解釈とは異なる内容で条文化したもの,がいずれも含まれています。
 前記①の類型については,要件事実の実質的な変更はないはずですが,債権者代位権(民423~423の7)や詐害行為取消権(民424~424の5)のように,従来は様々な類型について同じ条文が適用されていたものについて,条文を細分化して類型ごとの要件を明確化した規定もあります。このような場合には,当該事案に適用される条文を確認したうえ,当該条文に示された要件事実が具体的にどのようなものであるかを確認する必要があります。
 また,連帯債権(民432),債務引受(民470~472の4)及び契約上の地位の移転(民539の2)など,判例・学説上その存在が認められていたにもかかわらず,対応する条文がなかったものについて,条文が新設されて要件事実が明確になりました。
 前記②の類型としては,定型約款(民548の2~548の4)のように新たな概念が創設されて約款に基づく定型取引に関する要件事実が新設されたり,売買契約の目的物に契約不適合があった場合に修補請求(民562)や代金減額請求(民563)などが可能となり,その要件が定められたりしています。
 前記③の類型としては,条文上は要物契約とされながら,判例上,当事者間の合意のみでの契約成立も認められていた消費貸借契約について,書面でする消費貸借(民587の2)の規定が新設され,諾成的消費貸借契約の成立に書面性が要件として追加された例などがあります。
 その他にも実質的な変更点が数多くあるため,新債権法施行後に弁護士が訴状等を作成する際には,施行前後で要件事実がどのように変化したのか(又は変化していないのか)を十分に意識し,要件事実の不足が生じないように請求原因事実等を漏れなく記載する必要があります。

(2019年4月執筆)

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執筆者

中村 知己なかむら ともみ

弁護士

略歴・経歴

1973年 福島県にて出生
1997年 一橋大学法学部卒業、司法修習開始(第51期)
1999年 弁護士登録(東京弁護士会)
2017年〜司法研修所民事弁護教官

〒160-0022 東京都新宿区新宿5丁目8番2号
ニューライフ新宿2階永石一郎法律事務所

【主な著書】
『新債権法における要件事実と訴状記載のポイント』(新日本法規出版)著
『ケース別遺産分割協議書作成マニュアル』(新日本法規出版)共著
『医療機関再生の法務・税務』(中央経済社)共著
『信託の実務Q&A』(青林書院)共著
『事例式契約書作成時の税務チェック』(新日本法規出版)共編著
『社会生活トラブル合意書・示談書等作成マニュアル』(新日本法規出版)共編著
『〔改訂版〕ケース別 遺産分割協議書作成マニュアル』(新日本法規出版)共著

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