相続・遺言2025年06月27日 相続に潜む難問-使途不明金- 発刊によせて執筆者より 執筆者:本橋美智子

皆さんは、親の収入や親の預貯金額等の財産について、どの程度知っているだろうか。
親が高齢で財産の管理ができないために、親の預金通帳等を預かって、入出金を管理している子もいるであろうし、片や親との交流があまりなく、親の収入や財産についてほとんど知らない子もいるであろう。
また、親の介護や日常的な世話をしている子もいれば、親とはほとんど没交渉の子もいる。
このような親との親疎や情報の差が、親が亡くなったときの遺産相続では顕著に現れることになる。
特に、親の死亡後に親の預貯金を調べてみたところ、その金額が予想していたよりかなり少ない場合には、疎遠だった子は、親の介護や財産管理をしていた子に対し、疑惑の目を向けることになる。
このような被相続人の預貯金の出金をめぐる使途不明金問題は、遺産相続に関連してかなりの頻度で生ずる問題である。
この問題の背景には、被相続人の遺産に関する相続人間の情報の多寡の違いや、被相続人の介護への関与の程度の違い等が存在するので、使途不明金の金額の多寡を問わず、解決が困難な問題となる。
親の預貯金を管理する相続人の中にも、その使途等を比較的詳細に記録し領収書等の証拠を残している者もあれば、いわばどんぶり勘定であったり、親のお金と自分のお金を区別さえしていない者もある。そのため、使途の立証が容易でない場合も少なくない。
また、事案によっては、家計簿さながらに、長期にわたる出金の使途を詳細に説明せざるを得ない場合もあり、煩雑な作業を強いられることもある。
このように相続における使途不明金問題は、訴訟としての数が多く、解決も困難であるのに、法律論というより事実認定の要素が強いために、学説等ではほとんど取り扱われて来なかった。
本書は、使途不明金についてのQ&Aを記載し、近時の使途不明金判例を分析して、使途不明金訴訟を担当する弁護士に多少なりとも参考にしていただきたいと思って、編集したものである。
また、現に親の預貯金を管理している相続人や、親の財産の管理について他の相続人に任せきりにしている相続人に、親の死亡後に起こる可能性がある紛争を事前に知ってもらうことで、その紛争の予防に役立つことも期待している。
相続に関する紛争は、単に金銭の問題に留まらず、親族関係を崩壊させ、また紛争当事者に経済的、時間的負担や多大なストレスを与える問題である。
本書によって、その苛烈な問題を少しでも緩和できることを願っている。
(2025年6月執筆)
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