人事労務2015年06月18日 個別労働紛争解決のためのアドバイス 発刊によせて執筆者より 執筆者:馬場三紀子
労働関係に関する事項についての個々の労働者と事業主との紛争である個別労働紛争の増加は顕著であり、裁判所、行政(国と地方公共団体)、民間の各分野において紛争解決が行われています。なかでも行政の分野である都道府県の労働局、労働基準監督署、主要都市の駅近隣の建物などに設けられた総合労働相談窓口によせられた相談件数は、6年連続で100万件を超し、高止まりしています。また民事上の個別労働紛争の相談内訳については、「いじめ・嫌がらせ」が増加し全体の21.4%を占め「解雇」よりも多く、雇用形態別にみると平成14年度は正社員からの相談が53.6%を占めていたのに対し、平成26年度は正社員の比率が38.2%まで減少し、パート・アルバイトが16.2%、期間契約社員10.9%、派遣労働者4.4%の順に多くなっています。(「平成26年度個別労働紛争解決制度」施行状況(厚労省))。
紛争増加の背景には、国内外における企業間の競争の激化による厳しい雇用環境や女性労働者、高年齢労働者、外国人労働者が増えるなか、パート社員、契約社員、派遣社員といった非正規雇用労働者の増加による雇用形態の多様化があります。この雇用形態の多様化が職場での利害関係も多様にし、「労」対「使」の対立だけでなく、ベテランパートと正社員である新入社員という異なる雇用形態の労働者が職場を同じくすることに起因する紛争が起きています。さらに、高年齢労働者や短時間労働者、女性労働者を対象にした保護立法が増加し労働法制が複雑化する中で、事業主のとりわけ非正規雇用労働者に対する労働基準法などの労働法令の遵守意識の低さもあげられます。「面接に行ったら委託契約書にサインさせられた。」「有給休暇を申請したらパートにはないと言われた。」「仕事中にぶつけた車の修理代を全額、給料から差し引かれた。」「仕事中にケガをしたのに契約社員に労災の適用はないと言われた。」「上司のパワハラが原因でうつ病になるとパートを理由に退職届の提出を強要された。」「妊娠したら雇止めをほのめかされた。」「残業代を支払ってほしいと言ったら上司のいじめ・嫌がらせが始まった。」といった労働紛争が日々起きています。
一方で、「ミスや顧客からのクレームが多いので解雇したら不当解雇だと言われた。」といった事業主からの相談にもあるように、労働者はインターネット等を通じて労働法の基本的な知識を把握しているのが現状です。
事業所内で労働問題が放置されると労働者の不満が解消されないまま蓄積されるため、労働者本人には経済的、精神的損失が拡大し、事業主は有能な人材の流出やモチベーションの低下による生産性の低下を招くことになり、両者が協調していたら生み出すことが可能であった利益を失ってしまいます。また、紛争の解決には労使ともにいろいろな意味でコストがかかるのも事実です。
こうしたデメリットを回避するために、会社は会社の考えを一方的に主張するのではなく、立場の弱い非正規雇用労働者の本音に耳を傾け労働者にわかるように説明し、労使が互いに協力し合う姿勢を持つことで、トラブルが起こりにくい企業風土をつくることが可能になるでしょう。
(2015年6月執筆)
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執筆者

馬場 三紀子ばば みきこ
特定社会保険労務士
元愛知労働局紛争調整委員
CFP®
内部監査士
愛知県ワーク・ライフ・バランス普及コンサルタント
略歴・経歴
1990年 馬場社会保険労務士事務所 開業
2007年 特定社会保険労務士 付記
2009年~ 社労士会労働紛争解決センター愛知 あっせん人
2016年~ 愛知県雇用労働相談センター 相談員
<主な著書>
「職場のトラブル相談ハンドブック」(共著 新日本法規出版)
「誰にもわかる社会生活六法」(共著 新日本法規出版)
「非正規社員をめぐるトラブル相談ハンドブック」(編集 新日本法規出版)
「疾病を抱える社員の労務管理アドバイス-メンタルヘルス・がん・糖尿病・脳卒中-」(共編 新日本法規出版)
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2024年11月08日[] | ■馬場 三紀子(馬場社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士 元愛知労働局紛争調整委員(あっせん委員) CFP® 内部監査士 愛知県ワーク・ライフ・バランス普及コンサルタント 愛知県職場のメンタルヘルス対策企業等アドバイザー・相談員) | 【オンライン録画配信】最新人事労務講座第2弾「職場のメンタルヘルス問題とその対応方法」~事業主の義務と対策を中心に~ 主催:新日本法規出版株式会社 |
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