消費税2021年07月13日 消費税法に係る近年の改正について 発刊によせて執筆者より 執筆者:芹澤光春

1.消費税法の成立と初期の改正
消費税は平成元年に創設されましたが、国民の強い反対の中での成立であったため、初期においては消費税法の改正はタブー視されていたように思われます。導入直後である平成3年度には、創設時の問題に対する比較的大きな改正が行われましたが、それ以降平成21年度までは、制度そのものに対する改正は見送られてきました。この間に例外的になされたのは、平成9年度の税率5%への引上げ、および資本金1000万円以上で設立された法人は基準期間のない課税期間でも課税事業者になるという新設法人の特例の創設、平成15年度に免税点を3000万円から1000万円に引き下げるという、理解しやすい改正のみでした。
2.平成22年度以降に頻発した改正
しかし平成22年度の改正で、調整対象固定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例が創設されますと、堰を切ったように改正が行われることとなりました。このように多くの改正がなされるようになった背景には、会計検査院からの指摘があります。もともと消費税は国民の強い反対の中で導入を優先したため、税として不公平な欠陥を持っていたといえますが、創設から20年以上が経つと、これらの欠陥をついたスキームが多く見られるようになりました。これに対して会計検査院が欠陥を指摘したため、指摘された欠陥に対する場当たり的な改正が多くなされるようになったと思われます。
平成23年度以降、毎年のように重要な改正がなされました。主なものを列挙すると、平成23年:特定期間の課税売上高による免税事業者の判定、平成25年:特定新規設立法人の納税義務の免除の特例、平成27年:特定課税仕入れに対する課税(いわゆるリバースチャージ)、平成28年:高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例の創設が挙げられます。また令和2年には、居住用賃貸建物を取得した場合の仕入税額控除の制限の規定も創設されています。
3.複数税率とインボイスの導入
令和元年10月1日には、消費税率10%への引上げに加えて、飲食料品の譲渡と定期購読される新聞の譲渡に8%の軽減税率が創設されたため、わが国の消費税は複数税率制に移行しました。さらに、令和5年10月1日からは、仕入税額控除の方式として、適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス方式)が導入されることとなっています。特にインボイス方式については、令和3年10月1日より適格請求書発行事業者の登録が開始しますので、その準備が急がれています。
4.まとめ
平成22年度以降の改正は、どれも実務的に重要ですが、消費税の欠陥を是正するためになされたという経緯から、理解するためには高度な知識を必要とします。その上、短期間に難しい改正が連続したために、実務を担う税理士、経理担当者等の理解が追い付いていないように感じられます。各地を講演して回っていますと、特に平成25年度の特定新規設立法人に関する規定と、平成27年度のリバースチャージに対する理解が不足しているように思われます。
消費税率が10%に引き上げられたため、ミスを犯すと以前より多くの税額の影響が出るようになり、また、インボイスの導入も目前に迫った今、消費税法について根本から最新の情報まで、改めて勉強する時期に来ているのではないかと思われます。
(2021年7月執筆)
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執筆者

芹澤 光春せりざわ みつはる
税理士(芹澤光春税理士事務所)
略歴・経歴
一橋大学法学部卒
平成12年税理士登録(東海税理士会)
平成23年第34回日税研究賞(税理士の部)入選、平成26年第10回「税に関する論文」納税協会特別賞受賞。平成29年~令和3年東海税理士会税務研究所副所長。
<主要著書等>
『消費税 重要論点の実務解説』(大蔵財務協会、平成30年)、『消費税率引上げ軽減税率インボイス・業種別対応ハンドブック』(共著、日本法令、令和元年)、『消費増税・軽減税率対策 転嫁・インボイスはこう進める』(編著、ぎょうせい、令和元年)、『個人版事業承継税制のポイントと有利判定シミュレーション』(共著、日本法令、令和元年)他多数
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