民事2015年08月28日 離婚認容基準の変化と解決の視点 発刊によせて執筆者より 執筆者:森公任 森元みのり
夫婦の一方が離婚を求め、他方が離婚を拒否する。この場合に裁判所が離婚を認めるか否かは、個々の裁判官の価値観が影響する面もあり、判例の基準を一概に論じることは困難です。とはいえ、過去と比べ、離婚自体が認められやすくなっていることは指摘できます。
例えば、有責配偶者からの離婚請求は、昭和27年のいわゆる「踏んだり蹴ったり」判決のとおり許されないものとされてきました。昭和62年9月2日の最高裁大法廷判決によっても、①長期の別居期間、②未成熟子の不存在、③相手方配偶者が精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態に置かれないこと、という3要件を充足することが求められており、原則として認められないといってよい状態が続いていました。
しかしながら、東京高等裁判所平成26年6月12日判決(判例時報第2237号47頁)では、婚姻期間約9年(うち同居期間約7年、別居期間約2年)、7歳と5歳の2子がある夫婦について、不貞をした妻から安定収入のある夫に対する離婚請求を認容しました。同判決は、前記最高裁判決に言及しつつ、その実質的な理由を、一家の収入を支えている者が不貞に及んで離婚請求をした場合に、残された配偶者及び子が経済的に不安定な状態に追い込まれることを避ける目的にあったものと解した上で、「形式的には有責配偶者からの離婚請求であっても,実質的にそのような著しく社会正義に反するような結果がもたらされる場合でなければ,その離婚請求をどうしても否定しなければならないものではないというべきである。」と判示しています。
今後、離婚自体を比較的広く認める判例が主流となるとすれば、離婚を求める側も求められる側も、離婚に付随する問題、すなわち子の親権・監護・面会交流及び離婚給付に重点を置いて紛争を解決することがますます賢明といえます。言い換えれば、離婚原因を、単に離婚が認められるか否かだけではなく、これら付随的問題との関連を見据えて主張するほうが有益である場合も多いということです。
今でも、離婚原因の攻防に注意が向き過ぎると、子との関係や離婚給付において、かえって不利な判断を招く場合も散見されます。実のところ、これら付随的問題こそ、当事者のその後の人生を左右するものなのです。
養育費一つを取り上げても、基本的には算定表に基づき決まるとされていますが、主張の内容や取り決めの仕方によって、離婚時の金額はもちろんのこと、離婚後に増減額や延長が認められるか否かが異なってくることがあります。
離婚の結論は、単にお金の問題にとどまらない上、その家族の将来に長期的に影響するものですから、冷静かつ丁寧に、後で思わぬ不利益を招かない目配りが欠かせないものといえましょう。
(2015年8月執筆)
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