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一般2018年09月05日 会派は弁護士のための生きた学校である(法苑185号) 法苑 執筆者:帷子翔太

 一般には広く知られていないかもしれないが、弁護士会には、会派と呼ばれる団体が存在する。まずは、私の所属している東京弁護士会にある会派の構成について説明したいと思う。東京弁護士会には、法友会、法曹親和会、期成会及び水曜会と大きく分けて四つの会派が存在している。そのうち、私が所属している法友会は、さらに全部で一〇の部(単位会)に分かれている。また弁護士登録から一五年未満の弁護士で構成され、単位会にとらわれない横断的な法友全期会も存在する(法友会に所属する弁護士登録から一五年未満の弁護士は同時に法友全期会にも所属することになる。)。その他の会派の構成については、下記図を参照されたい。また、私が所属する会派のホームページについても適宜ご参照いただけたら幸いである(法友会ホームページ:http://hoyukai.jp/、法友全期会ホームページ:http://zenkikai.net/)。

 こうした会派は、たくさんの活動を行っており、実務について学び、弁護士として活躍されている先生方と交流する貴重な場として機能している。私もたくさんの先生方と会派を通じて交流の場をもつことができており、このような意義を持つ会派は、いわば「弁護士のための生きた学校」であると考えている。
 この度、法苑の執筆の機会を頂戴し、会派をテーマにしようと思い至ったきっかけは、会派が弁護士にとって多種多様な経験のできる生きた学校であるにもかかわらず、会派に所属しない同世代の先生方が増えてきており、会派の良さを改めて知っていただきたいと考えたからである。幸いにして、私は、所属事務所所長のご厚意から法友会の五部公正会に所属し、様々な経験をすることができている。弁護士になって三年目の新米ではあるが、会派の活動に参加し、どのような経験等を得ることができたのかを新米弁護士の視点から記し、会派の良さを知っていただけたら幸いである。なお、以下の記述は、いずれも私が所属する会派を前提としたものであり、他会に関して網羅しているものではないことをご了承いただきたい。
 さて、私が、会派の活動に触れる機会を得たのは、司法修習生の頃である。大学生、法科大学院生の頃からお世話になっていた先生方のご厚意で、とある会派の昼食会に参加させていただいた。当時、会派の仕組みなど全く理解していなかった修習生であった私は、就職活動として、また弁護士として活躍されている先生方のお話を伺える機会として参加していたに過ぎなかった。その後、無事二回試験を終え、弁護士登録をし、業務を始め、法友会の五部公正会に所属し、同会や法友全期会の活動に参加する機会を頂戴して、会派の仕組み等について少しずつ理解をしていった。
 会派の活動であるが、まず取り上げるべきは勉強会である。勉強会は、一定の分野に精通し、かつ多数の経験を持った先生が講師となり実施されるもので、例えば、民事信託・家族信託に関する勉強会、裁判官を退官され弁護士登録をされた先生による訴訟でのノウハウに関する勉強会、民法改正に関する勉強会及び家事事件に特化した裁判例の勉強会など、多種多様な勉強会が実施されている。私が勉強会に参加して感じることは、「本に書いていないこと」を学べるということである。法理論や弁護士実務について書かれた書籍は数多存在するが、どれも書籍に書かれている文章から得る情報である。しかし、会派での勉強会は、講師の先生から、実際の経験をもとに、惜しげもなくノウハウ等をご教授していただけるため、本に書いていない生きた情報を多数学ぶことができる。また、勉強会での質問や勉強会後の懇親の場等でも、勉強会のテーマに類似した自分の行っている事件について、アドバイスをもらうこともできる。
 次に、会派の活動として欠かせないものは、各種イベントである。こうしたイベントは、私のような新米の弁護士にとっては、諸先輩や同世代の先生方と接することができる貴重な交流の機会である。イベントの種類は多種多様であり、毎年行われる代表的なスポーツ企画としては、ソフトボール大会、駅伝大会、ボウリング大会等がある。また、東日本大震災の被災地訪問、他の弁護士会との交流、一般市民向けの法律相談会の実施、海外の弁護士との交流といった活動も行われている。こうしたイベントでは、諸先輩や同世代の先生方とともに世代を超えてご一緒し、たくさんの先生方と交流の機会を持つことができる。
 このような交流の機会を持つことが私のような新米弁護士にとってどのようなメリットがあるのか。この問いに対し、簡潔に回答することは困難であるが、あえて簡潔に言わせてもらえば、「経験を共有すること」、「自衛につながること」ではないかと考えている。
 新米の私は、所属事務所において担当させていただいているもの一つ一つが新たな問題を含み、初めて経験することばかりである。そのため、時間をかけて調査等をしつつも、手探りで日々業務にあたることになるが、たくさんの先生方、特に諸先輩の先生方と交流を持ち、何気ない会話の中で質問をすることで悩みが簡単に解決してしまうことがある。お忙しくされている複数の先生方と個別にアポイントメントをとり、時間をとっていただいて交流の場を持つということは大変困難なことであるが、会派のイベントに参加することで、こうした交流の場を持つことができ、また諸先輩の先生方に顔と名前を覚えていただくことで、相談等もできるようになる。こうして、諸先輩方が得てきた経験をご教授いただき、共有し、実務に生かすことができるようになる。
 弁護士にとっての自衛という言葉は、様々な意味を持つが、特に弁護士になって一年目の新人研修等の際に度々ご指導いただくのは、いわゆる非弁行為や犯罪行為等に巻き込まれないようにすることである。とはいえ、新人の弁護士は、経験が乏しいため、経験の無さに乗じて勧誘されてしまい、知らず知らずのうちにこうした行為に巻き込まれてしまうことがある(実際にそのような例は多々あるようである。)。このような行為に巻き込まれないという意味での自衛のために、会派は大変有意義であると感じている。例えば、実際に非弁行為に巻き込まれてしまった事例に関する情報を知る機会は少ないが、会派の勉強会やイベント等に参加することで、諸先輩の先生方から生きた情報を得ることができる。また、非弁行為を行うために弁護士に向けた勧誘等があるようであるが(同世代の先生方で直接事務所まで訪問されて勧誘を受けたことがあると聞き及んでいる。)、そうした勧誘の手口などを事前に知ることができる。事前に情報を得ていれば、これに対処し、避けることもできるようになり、自分自身で判断することが難しければ、相談をさせていただくこともできる。こうして、非弁行為等の勧誘を避け、自身が違法な行為に気づかずに参加してしまうという事態を避けることができ、自衛につながるのである。
 会派に所属し、その活動に参加することの意義は、これまで述べた勉強会や各種イベントへの参加だけではなく、多種多様であり、ここですべてを申し上げることは到底できるものではないが、少しでも会派の活動に興味を持っていただけたら幸いである。会派は、「弁護士のための生きた学校」なのである。

(日本大学大学院法務研究科助教・弁護士)

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