カートの中身空

商業登記2025年01月10日 使い倒していただくことを願って 発刊によせて執筆者より 執筆者:立花宏

 「この登記の申請に必要な添付書類はこれで全部だったかな」
 商業登記を主業務とする私にとっては恥ずかしいことですが、普段、あまり扱っていない内容の商業登記案件を受任した際、どのような添付書面を揃えればよいのか、迷うことがあります。また、日常的に扱っている内容の商業登記案件でも、揃えた添付書面を他の目的で援用できるのか等、ふと悩ましく感じることがあります。それを調べるために、商業登記の文献等を調べることがあるのですが、多くの文献等は、商業登記申請の前提となる実体手続の解説等もあり、内容が広範囲で充実しているために、かえって必要な書類を確認するのに手間取ってしまうことがありました。むしろ、そのような時に、必要な書類を確認することを主目的としたチェックリストのようなものがあると実務には有用ではないだろうかと常々思っておりました。
 そんなことを考えていた時に、新日本法規出版の担当者様から、商業登記の添付書面についての書籍の執筆をお誘いいただきました。正直なところ、地方都市で開業しており、大都会で開業していらっしゃる先生方のような複雑な登記案件を受任することはほとんどない私にそのような書籍を執筆する能力があるのだろうかと自問自答しました。しかし、自分が欲しいと思っていたのですから、きっと、そのような書籍が存在したら利用したいと思っている同業者等は少なくないだろうと思いました。そうした方々に少しでも役に立つのであればと思い、思い切って、執筆を決意いたしました。
 もちろん、私には商業登記という広い範囲の実務書を一人で執筆するだけの能力はありません。しかし、書籍というのは、必ずしも一人で執筆しなければならないわけではありません。せっかく出版するのであれば、できる限り、お使いいただく皆様にとって役に立つ内容であるべきだと思いました。そこで、商業登記の各分野について経験豊富で、実務に精通している司法書士の方々にお願いし、執筆者に加わっていただきました。
 たとえば、取締役の就任(増員)の登記を想定します。まず、選任した際の株主総会議事録が必要となります。そして、取締役候補者が就任を承諾したことを証する書面が必要となります(他にも必要な添付書面はありますが、ここでは割愛します。)。株主総会議事録に取締役候補者が席上就任承諾した旨の記載があれば、一般的にはこの株主総会議事録を、就任を承諾したことを証する書面として援用することができます。しかし、この取締役候補者が出席取締役として記載されていなかった場合、この株主総会議事録を援用することができるでしょうか。
 同様に、取締役が株主総会の席上で辞任する旨の発言をした旨の記載があれば、一般的には、この株主総会議事録を、辞任を証する書面として援用することができますが、この取締役が出席取締役として記載されていなかった場合、この株主総会議事録を援用することができるでしょうか。
 本書は、このような場合に、取締役の就任や辞任の登記の際に必要となる書類のチェックリストとして使用することができるのはもちろん、そうした実務で悩ましく感じる点等をMemoとして記載しています。
 また、世の中では、最近、書類の電子化等が進んでいます。商業登記実務も例外ではなく、添付書面となることがある官報は令和7年4月1日から電子化されますし、取締役会議事録等を電磁的記録で作成する株式会社も増えてきているように感じます。この場合、官報や議事録等を商業登記の添付書面として利用するためにはどのような注意が必要でしょうか。
 さらに、商業登記実務においても、外国の方や会社が関係する案件を受任する機会が以前より増加しているように思います。本書ではそうしたケースについての解説も内容に含めております。
 本書は、通読したり、あるいは、何かの時のために本棚に備えておいたりするための本ではありません。商業登記実務に携わる皆様に日常的に使い倒していただくことを想定して執筆いたしました。ボロボロになるまで使い倒していただければ望外の喜びです。

(2025年1月執筆)

発刊によせて執筆者より 全76記事

  1. 発刊によせて
  2. この世には地獄がある
  3. 使い倒していただくことを願って
  4. 発刊によせて
  5. 最適な贈与契約のために
  6. 発刊によせて
  7. 税理士事務所経営のささやかな羅針盤となるように
  8. 相続問題に効く100の処方箋
  9. 相続土地国庫帰属制度の利活用促進の一助になれば
  10. 患者と医療従事者とのより望ましい関係の構築を願って
  11. 遺言・遺産分割による財産移転の多様化と課税問題
  12. 専門職後見人の後見業務
  13. 不動産の共有、社会問題化と民法改正による新しい仕組みの構築
  14. 登記手続の周知
  15. 育児・介護休業制度に対する職場の意識改革
  16. メンタルヘルスはベタなテーマかもしれないけれど
  17. 持続可能な雇用・SDGsな労使関係
  18. 自動車産業における100年に1度の大変革
  19. 中小企業の事業承継の現状と士業間の連携
  20. 消費税法に係る近年の改正について
  21. コーポレートガバナンスと2つのインセンティブ
  22. 労働者の健康を重視した企業経営
  23. 被害者の自殺と過失相殺
  24. <新型コロナウイルス>「株主総会運営に係るQ&A」と中小企業の株主総会
  25. 意外と使える限定承認
  26. 保育士・保育教諭が知っておきたい法改正~体罰禁止を明示した改正法について~
  27. 筆界と所有権界のミスマッチ
  28. 相続法改正と遺言
  29. 資格士業の幸せと矜持
  30. 労働基準法改正への対応等、ケアマネジャーに求められる対応は十分か
  31. 人身損害と物的損害の狭間
  32. <新債権法対応>契約実務における3つの失敗例
  33. 新債権法施行へのカウントダウン - 弁護士実務への影響 -
  34. 不動産売買における瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換の影響
  35. 子を巡る紛争の解決基準について
  36. 所有者不明土地問題の現象の一側面
  37. 相続法の大改正で何が変わるのか
  38. 民法改正による交通事故損害賠償業務への影響
  39. 「相手が不快に思えばハラスメント」の大罪
  40. 身体拘束をしないこと
  41. 合同会社の設立時にご検討いただきたい点
  42. 社会福祉法人のガバナンスが機能不全している実態が社会問題に
  43. 借地に関する民法改正
  44. ただの同棲なのか保護すべき事実婚なのか
  45. 農地相談についての雑感
  46. 瑕疵か契約不適合か 品確法は、改正民法に用語を合わせるべきである
  47. 外国人受入れ要件としての日本語能力の重要性
  48. 相続法改正の追加試案について
  49. 民法(債権法)改正
  50. 相続人不存在と不在者の話
  51. 財産分与の『2分の1ルール』を修正する事情について
  52. 離婚を引き金とする貧困問題と事情変更による養育費の変更
  53. 建物漏水事故の増加と漏水事故に関する終局的責任の帰趨
  54. 働き方改革は売上を犠牲にする?
  55. 次期会社法改正に向けた議論状況
  56. 消費者契約法改正と「クロレラチラシ配布差止等請求事件最高裁判決(最判H29.1.24) 」の及ぼす影響
  57. 「買主、注意せよ」から「売主、注意せよ」へ
  58. 障害福祉法制の展望
  59. 評価単位について
  60. 止まない「バイトテロ」
  61. 新行政不服審査法の施行について
  62. JR東海認知症事件最高裁判決について
  63. 不動産業界を変容させる三本の矢
  64. 経営支配権をめぐる紛争について
  65. マンションにおける管理規約
  66. 相続法の改正
  67. 消防予防行政の執行体制の足腰を強化することが必要
  68. 最近の地方議会の取組み
  69. 空き家 どうする?
  70. 個人情報保護法、10年ぶりの改正!
  71. 最近の事業承継・傾向と対策
  72. ネーム・アンド・シェイムで過重労働は防止できるのか
  73. 離婚認容基準の変化と解決の視点
  74. 境界をめぐって
  75. 妻の不倫相手の子に対しても養育費の支払義務がある?
  76. 個別労働紛争解決のためのアドバイス

執筆者

立花 宏

司法書士・行政書士

略歴・経歴

東北大学教育学部卒。

主な著書
『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論第2版』(中央経済社、2021)
『商業登記実務から見た中小企業の株主総会・取締役会』(中央経済社、2017年)
『事例で学ぶ会社法実務全訂版』(共著、中央経済社、2018年)
『論点解説 商業登記法コンメンタール』(共著、金融財政事情研究会、2017年)

執筆者の記事

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