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企業法務2024年09月18日 刑法改正のポイント 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:山本美愛

1 はじめに
2023年12月29日、中国の全人代常務委員会において刑法改正案が採択され、2024年3月1日から改正刑法が施行されております(以下「改正刑法」といいます)。贈収賄に対する重要な改正が行われた2015年の刑法改正に続き、今回の改正刑法でも贈収賄罪に対する処罰規定の改正が行われ、民営企業の不正行為に対する処罰強化も行われました。
中国国内において贈収賄の取り締まりが強化されて久しいですが、日本企業も巻き込まれないよう、より一層のコンプライアンス管理体制の確立が求められます。
以下、改正のポイントを紹介いたします。
2 改正刑法のポイント
(1)贈賄罪法定刑の改正
改正刑法は贈賄罪に関する法定刑を3年以下の有期懲役、3年以上10年以下の有期懲役、10年以上から無期懲役までの3段階に改正しました。改正前は、贈賄罪の法定刑の方が収賄罪より重いという不均衡がありましたが、実際の摘発は贈賄に比べ収賄の取締りの方が厳格でした。取締りの背景には、国家権力をもつ公務員がその権力を自己の利益の為に使うことは、国家、公益に対する重大な裏切りであるという考え方があり、収賄側を厳しく処罰していました。
しかし、近時では、収賄者と贈賄者は共犯関係にあり、贈賄行為がなければ収賄行為も成立しないのだから贈賄も収賄と同じく処罰すべきという理解が広まり、今回の改正では法定刑が整合されました。法定刑の整合により、今後は収賄とともに贈賄も統一的に取り締まる運用が加速すると考えられます。
(2)贈賄罪に対する加重処罰
改正刑法では、以下のとおり、実務上散見される事情及び社会的な悪影響の大きい事情について、贈賄罪を加重処罰すると規定されました。
①複数回にわたり贈賄をし、又は複数人に対して贈賄をした場合、②国家工作人員が贈賄をした場合、③国家重点プロジェクト、重大プロジェクトにおいて贈賄をした場合、④職務、職級の昇進、調整のために贈賄をした場合、⑤監察、行政法執行、司法業務人員に対する贈賄をした場合、⑥生態環境、財政金融、安全生産、食品医薬品、防災救済、社会保障、教育、医療などの分野で贈賄を行い、違法な犯罪活動を実施した場合、⑦違法な所得で贈賄した場合です。上記事案においては、贈賄も重点的な調査対象となり重く処罰されることになります。
(3)民間企業(外資企業含む)の幹部や従業員の不正行為の取締り
改正前の刑法では、民間企業においては、業務上横領、国の職員でない者の収賄罪、資金流用罪の3つの犯罪類型しか認めておらず、日本で背任罪に問えるような行為も民事責任を追及できるのみであり、刑事責任の追及はできませんでした。
しかし、改正刑法では、今まで国有企業にしか適用されていなかった以下の行為を民間企業にも適用させ、重大な損害が発生した場合には処罰することになりました(以下3類型は日本の背任罪に該当しうる犯罪類型になります)。
①同種営業不法経営罪(董事、監事、高級管理人員が、職務上の便宜を利用して、自己が任職する会社と同種の営業を経営する行為)
②親族・友人不法図利罪(職務上の便宜を利用して、A)本単位の営利業務を自己の親族・友人に経営させる行為、B)市場価格よりも明らかに高い価格で自己の親族・友人が経営管理する単位から商品の購入若しくは役務の享受をし、又は市場価格よりも明らかに低い価格で自己の親族・友人が経営管理する単位に対し商品の販売若しくは役務の提供をする行為、C)自己の親族・友人が経営する管理単位から不適格な商品又はサービスを受領する行為)
③会社、企業資産私利廉価株式換算及び売却罪(会社、企業の直接責任を負う主管者が、私利目的で、会社の資産を低価格の株式に換え、又は低い価格で売却し、その会社又は企業の利益に重大な損害を生じさせること)
上記3類型について、捜査機関への告訴に際してどの程度の疎明資料が必要かは今後の事案の集積が待たれますが、刑事事件化した場合、刑事予納制度(捜査機関が被疑者財産を差し押さえ、その中に被害者の財産が含まれた場合には被害者に返還する制度)の適用により損害額の回収可能性が高まり、刑事手続きにおける民事付帯請求(刑事裁判で認定された事実に基づき、被害額の民事請求が可能になる制度)により民事事件の立証負担軽減が図られるという大きな効果が期待できます。
3 まとめ~日本企業が気を付けるべきポイント~
今回の改正刑法は、贈賄罪の取締りを強化するという姿勢を明確にし、国有企業にしか適用されていなかった背任行為に関する規制を民間企業にも拡大しました。
中国では、官民問わず、贈答品文化、仲介行為に謝礼を支払うという慣習が根付いており、ビジネス上、行政とも良好な関係を維持する必要があることから、こういった慣習等を否定し、全面禁止にできない実情があります。
賄賂について具体例を挙げれば、たとえば税関において、担当者から在庫問題等を指摘され、輸出入手続きを止める、信用ランクを下げる可能性がある等と示唆され、併せて問題解決のためコンサルタントを紹介されるというケースがあります。法外な業務委託報酬の中に税関担当者への賄賂が含まれており、コンサルタントを通じた贈賄と知りつつも、物流を止めるわけにいかず契約してしまうことがあります。
日本本社は、中国子会社と日本本社との間に文化慣習に対する感覚の違いがあることを理解しつつも、現地任せにせず、決裁権限規定を順守させ、適切に監査し、継続的に関与し指導することが必要です。上記事例では、本社決裁権限があるため中国子会社には契約締結権限がないとして日本本社が対応することで、中国子会社に法的リスクを冒させないことが必要になります。
今後、中国では、民営企業に対するコンプライアンス管理体制確立の要求がますます強まることが予想されます。日本本社には、中国子会社の内部統制を適切に整備する責務があり、中国子会社の法令順守状況を現地任せにせず把握することが極めて重要です。

(2024年8月執筆)

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執筆者

山本 美愛やまもと みあい

弁護士(弁護士法人 法円坂法律事務所)

略歴・経歴

2017年1月 弁護士法人法円坂法律事務所入所
2021年3月 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構理事就任

中国法務に関するセミナー実績
2017年4月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「日中両国の弁護士が語る最新の法律実務」
       -①外商投資を巡る新たな動き、②撤退に関する新たな動向・企業
        破産法を巡る最新の実務、③日系企業の役に立つ最近の実例紹介-
2018年3月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「日中両国の弁護士が語る最新の法律実務」
       -環境に関する法律問題と近時の実務動向-
2020年9月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「日中両国の弁護士が教える新型コロナ影響下の人事・労務のポイント」
2021年5月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「日中両国の弁護士が語る新型コロナのワクチン接種に対する企業対応のポイント」
2022年5月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「日中両国の弁護士が教える個人情報保護法のポイント」
2023年5月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「日中両国の弁護士が教える事業再編・出口戦略のポイント」

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