不動産登記2025年01月06日 発刊によせて 発刊によせて執筆者より 執筆者:山田猛司

近年、所有者不明土地問題がクローズアップされ、令和元年の民法改正では、特定財産承継遺言による相続登記の遺言執行者による申請権限の付与や相続登記の対抗要件に関する法制化が行われ、相続登記の促進が図られました。
令和3年の民法等の一部改正法では、相続人に対する遺贈の登記が受遺者による単独申請ができることとされたり、法定相続分で登記した後に遺産分割協議があった場合の相続登記手続については、従来移転登記をしなければならないこととされていたものが、登記権利者が単独で登記申請することができるようになり、また、登録免許税も1,000分の4の定率課税から、不動産1個につき1,000円で登記することができる更正登記となりました。
その他、従来土地や建物の所有者が不明の場合には不在者財産管理人制度を利用するしかなかったものが、不在者財産管理制度については、共有不動産の不在者が複数人の場合、管理人を各別に選任しなければならず、予納金もそれぞれの不在者財産管理人毎に予納しなければなりませんでした(そもそも所有者が不明な場合には不在者財産管理制度は利用できませんでした。)。
この問題に対し令和3年の民法により、所有者が不明な不動産毎に管理人を選任することができる「所有者不明土地管理制度」や「所有者不明建物管理制度」が創設されました。これにより、共有の所有者不明土地に関しても所有者不明土地管理人を1名選任すれば、当該管理人が複数の不在者の財産を管理することができることとなりました(ただし、所有者不明土地管理人は、所在不明者の全財産を管理する権限を有しているわけではないので、遺産分割協議に参加することはできません。その場合には従来通り、不在者財産管理人制度を利用するしかありません。)。
以上のように、最近の法改正により、土地や建物の所有者が不明な場合であっても、当該不動産を利活用する方法の選択肢が増えましたので、今後は登記の困難要因の対応方法についてさらに多くのことを検討し、最善の方法を選択する必要があります。
そこで、本書では不動産登記の困難要因として以下の点に分類した上で検討しました。
1. 未登記不動産に関する登記手続上問題
2. 所有者不明不動産に関する実体法上の問題
3. 相続人不存在の場合の問題
4. 共有不動産に関する問題
以上の困難要素を前半の総論的な『Q&A編』と後半の個別事例での問題点と解説をする『ケース編』に分けて執筆をいたしました。
困難要因を検討するにあたり、内容や解釈により新たな解釈上の困難を招く怖れもあり、法改正部分について解説を試みたものの、確定的な解釈が難しい部分について、実務上の混乱を招きかねないとして執筆を断念したものもありました。
本書の執筆にあたっては官公署からの権利調査(所有者や相続人の調査等)や困難な登記を多数受託している「公共嘱託登記司法書士協会」の経験豊富な関係者を中心とする共同執筆となりました。
なお、改正民法や改正不動産登記法についても改正されて間もないため、今後いろいろな問題も生じると思いますが、本書によりその基本的な問題点や対処法を理解することで、新制度の変化にも対応することができるものと思われます。
本書が、空き家問題や所有者不明土地問題の解決等の一助となり、また困難登記の解消に少しでもお役に立てれば、筆者としては望外の喜びです。
(2024年12月執筆)
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執筆者

山田 猛司やまだ たけじ
司法書士
略歴・経歴
全国公共嘱託登記司法書士協会協議会会長
(公社)東京公共嘱託登記司法書士協会相談役
電子政府推進員(総務省)
東京経済大学現代法学部大学院「登記手続法研究」非常勤講師
成蹊大学法学部「不動産登記法」非常勤講師
駒沢大学法学研究所実務家コース「不動産登記法」指導員
<主な著作>
「会社分割と根抵当権」東京司法書士協同組合/平成16年・単著
「不動産登記はこう変わった!Q&A速報版」セルバ出版/平成16年・共著
「新不動産登記関係法令とその読み解き方」セルバ出版/平成17年、平成18年改訂・編著
「新不動産登記の改正実務Q&A」セルバ出版/平成18年・共著
「ケース別不動産取引登記の実務」新日本法規出版・加除式/平成21年・共著
「根抵当権の元本確定・実行」(『新担保・執行法講座第3巻』民事法研究会)/平成22年・佐藤歳二他編
「不動産登記法 半ライン申請特別講座」「極!不動産登記法」日本リーガルDVD講座/平成22年
「未処理・困難登記をめぐる実務」新日本法規出版/平成27年・編著
「抵当権・根抵当権に関する登記と実務」日本加除出版/平成28年・単著
「不動産 権利者の調査・特定をめぐる実務」新日本法規出版/平成31年・編著
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