一般2010年03月01日 中国の富裕層は日本経済の「救世主」か 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:川口創
2009年、日本を訪れた中国大陸の観光客は2008年より0.6%増え、2008年に続きのべ100万人を超え、史上最高に達した。
2009年は世界経済危機や新型インフルエンザの影響などから、日本を訪れた外国人観光客が2008年より18.7%減した中で、中国観光客だけが増加した。
他の国からの観光客との違いは、各地を回る、ということよりも、「純日本製の製品を日本で買う」ということを目的に来日する人の割合が極めて高い、ということが指摘されている。
とりわけ、銀座や秋葉原が人気のようだ。
中国人観光客の増加は、2009年7月に日本政府が中国人向け個人観光ビザを解禁したことがさらに後押しをしている。しかも、ビザ発行の際に「年収25万元(約317万円)以上」ということを条件としていることが、富裕層を日本に取り込むことに一定の効果を上げているものと思われる。
銀座の大型百貨店でも、全体の売り上げが落ちる中、中国からの観光客の売り上げ率が増大している。銀座で買い物をしている中国人観光客の感覚からすると、「銀座は香港などよりブランドものが安い」と感じるそうである。
秋葉原で電気製品を買う中国人観光客の姿も多い(当職も東京出張の際には秋葉原に行くことが多いので、「肌感覚も含めて」であるが)。ある店のスタッフによれば、「予算100万円」という中国人も少なくないため、中国語が分かるスタッフを置くなど、戦略的にターゲットとして位置づけている店も多いようである。
中には、週末に買い物目的だけで来日する中国人も少なくないとのことであった。
日本のマスコミも、「中国人観光客が日本経済を救う」というような趣旨の記事が目立っている。「AERA」2010年3月1日号でも、「三越の売り上げ3倍に」との見出しで、中国人観光客を「救世主」のように取り上げている。
不景気の日本経済を打開するために中国の富裕層を日本に呼び込んでいくこと自体は、戦略的には間違っていない。
しかし、「中国人の富裕層に依存する経済」というのはやはり不自然ではないか。
一時的な景気の回復につながるかもしれないが、長期的に日本の経済力を高めることになるのかはきわめて不透明である。
また、個人ビザ発注の際に経済条件を付けること自体、日本人が中国人に対して不信感を持っていることを示すことになりかねない。単に富裕層にお金を使いに来てほしい、というだけでは、相互の信頼を深めることにはならない。現に中国国内のブログでは、日本のこの政策に対して「差別だ」などという批判が上っている。
もし、日本の不景気の打開のために「日中経済の深化」を本気で図ろうとするならば、「富裕層に限って日本にどうぞ」という目先の「関係」では難しい。
どちらの国の個人も自由に行き来できる関係を築き、相互信頼を深め、本当の「友好関係」を創っていくことが「日中経済の深化」の第一なのではないだろうか。
(2010年2月執筆)
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