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一般2006年10月04日 冷静な眼と暖かい心 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:菅原哲朗

 日本と中国の「政冷経熱」を見据え、日本のリーダーが小泉純一郎首相から安倍晋三首相へと変わる節目に、政治関係の打開が模索されている。日中間における「反日感情」と「嫌中感情」という国民感情のねじれを解きほぐすには、両国の繁栄を約束する調和と協力を旨とするビジネス活動の更なる発展が一つの鍵となる。
 西風に北京名物の柳の白い綿実が空中を優雅に漂う一方、ゴビ砂漠から飛来する黄暗色の黄砂が太陽を霞ませる春の北京において、東京の中小企業家の有志と北京の経済グループを指導する組織とは「日中ビジネス交流に関する基本意向書」にサインし、新たな活動を始めることになった。趣旨は日本のビジネス活動の基礎は中小企業家であり、中国の中小企業家との友好を深め、互いのビジネス活動を発展させ、友情の絆を強めたいとの発想だ。
 さらに「日中ビジネス交流に関する基本意向書」に「甲・乙双方は相互に協力して、顧客の経済ビジネスに基づく紛争を調整し、解決する。」との紛争解決条項を定め、日本と中国の会員企業間のビジネス紛争を相互に解決する自主自律機能を持たせている。それは数年前から会員である中国企業および日本企業に対して、弁護士として「冷静な眼と暖かい心」をスローガンに法律相談を受け、純粋の法律問題だけでなく日中間の苦情を調整してきた体験から必要と考えたからだ。

 風が清々しく、澄んだ青空の広がる「北京秋天」の2006年9月4日、清華大学の公共管理学院において「北京オリンピックにおける法的危機管理・・・ スポーツ法の視点から ・・・」と題する講演をしてきた。テーマは、中国における様々な危機管理問題(チャイナリスク)を検討し、2008年北京オリンピックの安全な開催である。北京オリンピックは「新北京、新奥運」のスローガンで、経済成長の最優先から、大気汚染・交通渋滞・緑地不足・電力・公衆トイレ完備など都市環境対策に力を注いで「経済発展と緑豊かな都市環境」を両立させる街づくりを進めている。
 オリンピックというスポーツの祭典は北京市民の夢である。北京五輪が終わって、素晴らしいスポーツイベントだったと世界各国にアピールし、世界市民に美しい平和の祭典だったと記憶に残すポイントは、(1)スポーツと政治の分離(2)スポーツとビジネスの分離である、と述べた。
 そこで、2005年11月韓国ソウル大学において「アジアスポーツ法学会」を創設した経験から、日中間の国民感情のねじれを解きほぐす二つ目の鍵を提言した。民間レベルの国際交流を通じて友好と連帯を深めるには日本語の堪能なボランティアの中国人で組織する『(仮称)「北京オリンピック紛争予防相談室」を設置せよ。』との提言である。
 北京オリンピック期間中に予想される市民間の様々な紛争として、「施設会場チケットの不正入手や優先入場」「競技応援での口論と暴行」「入場・退場の身体検査と長い列の割り込み」「ホテル予約やキャンセルのトラブル」「飲酒による感情爆発」「宿泊代金や商品代金の不払い」等々がある。スポーツは陸上・水泳・球技でも同じルールで正々堂々と競い合うことが原則だ。しかし、法律は国によって異なる。外国人でも自国の法律ではなく、滞在する外国の法律に従う義務がある。法律は、常識と一致する場合がほとんどだが、特に、アジア人でも中国人と日本人の価値判断基準が異なり、常識が違うので、互いの意見が異なり、感情が激高して紛争が生まれる。さらに言葉の誤解や心理的摩擦が法的紛争の芽となる。紛争が裁判に拡大する前に、冷静に話し合いで解決できる調整の場を設置すべきなのである。
 具体的には2008年8月8日から8月24日までの北京オリンピック期間中に、「(仮称)北京オリンピック紛争予防相談室」という臨時の不平・苦情を受け付ける窓口を設置する。ここでは、日本語の分かる中国人が日本人の不平・苦情を聞き、緊急の紛争を処理する無償のボランティア組織だ。一般的に日本人は、論争が下手だ。トラブルの原因を指摘して、論理的に言葉で自己主張するのが得意でない。まず、不平・苦情を真剣に聞いてくれる中国人が存在し、言葉が通じることで感情が収まる。さらに、「冷静な眼と暖かい心」をスローガンに紛争に巻き込まれた日本人の為に、中国語で弁護してくれる中国人の存在を現実に知る。困っている日本人を助けるボランティア中国人の行動力を理解し、肌で知った中国が好きになる。

 この提言が生かされるか、否かは二年後に判明する。

(2009年9月執筆)

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