一般2016年04月13日 203高地への道 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:加藤洪太郎
昨年、久方ぶりに今は史跡となっている203高地を訪れました。歴史は日露戦争(1904年~1905年)。旅順港湾に立て籠もるロシア極東艦隊を背後の陸側から砲撃するため、湾内を見おろすことができる観測点となった高地です。その奪取めざす日本軍と強固な陣地を構築して護りを固めるロシア軍との間で死闘が繰り返された要衝です。
(社)日中法務交流・協力日本機構が推進力となって大連に日本の法律事務所代表処を開設して15年。その周年記念行事に参加された方々の有志とご一緒しての視察でした。
以前にもこのコラムで触れましたが、これまで何度も足を運ぶたびに、新しく史実を知り、そこから新たな関心事が浮上し、そこで学びなおし調べなおしが始まるということを繰り返して参りました。
そのなかで、終始、取り付いて離れない〝どうやって?〟の関心事がございます。
あらためて、それは、若者の戦場への動員・投入のことなのです。
1904年の203高地攻略戦では、実に6万4千名の戦闘員が投入され、内5千52名が戦死し、1万1千884名の負傷者を出したという。
100年以上を経た21世紀の今、前夜、自分たちは大連のホテルで温かいお風呂と夕食。明けて翌朝、観光バスで楽々と203高地に。
その道中で思い浮かべるのです。
かの1904年の6万4千名の兵は、朝鮮半島あるいは遼東半島に上陸以来、連日連夜、歩き野営しまた歩き野営するの長旅を重ねて203高地の大会戦に向かったという史実のこと。いったい、どうやって、それだけの人数の若者を、それだけの長途に、しかも死地に向かって動員し得たのだろうか?
応仁の乱に始まる戦国の惨禍を収拾し、歴史上まれに見る300年の平和を成し遂げたのが徳川政権。それを倒した1868年の明治維新から1904年までの37年間に、維新政府はどのように日本および日本人を異国の地まで遠征して戦い得るように造り変えたのか?
この史実の肝心要のところを調べ直さねば、ということが切実な課題ともなってきているように思います。1945年の敗戦以来、70年続けてきた平和の果てに、2015年には再び外地での戦争を日本人をして戦わしむる法制が復活したからであります。
「存立危機事態」(改定自衛隊法)は、かの〝満蒙は日本の生命線〟とどこが違ってどこが一緒か?そして、これから外地の戦地に赴く日本の兵員はどのようにして動員されるのか?
かの遼東半島に代表処を置いて、初めてこの課題あることを実感した己を語る次第でございます。
(2016年4月執筆)
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