一般2012年11月01日 強く望まれる独禁法制の東アジア圏協力協定化 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者：加藤洪太郎

　過日、バンコクで車部品の現地メーカー経営者の声を聴く機会があった。独立開業して旺盛に操業中のタイ人中小企業家である。
　タイに進出した自動車関係の日系組立産業に製造した部品を納品しているが、毎年のように５％のコストダウンを求められて来ているという。また、代金の支払サイトが30日であったものを60日に延ばされそうになったが、何とか45日に押しとどめたとのこと。
　他方で、従業員の給与水準が昨年一年で従来の40％近いアップとなった。タイに出稼ぎに来ていたミャンマー人の多勢が、母国の民主化への動きをみて帰国しはじめたのもその一因となっているとか。
　上からのコストダウン要求、下からの賃金アップ、両者に挟まれてやむなく１／２の人員整理に及んだと云う。
　まるで日本国内を見ているような感となった。
　そこで、同行した某社の社長が問う。「御社の10年後の姿をどう描いておられますか？」タイの社長は即答して曰く「最低、現状維持はしたいですね」。２倍化３倍化の夢が語られるかと思いきや、この厳しさはいったい何故か？　聴けば「一方で組立産業からコストダウンを迫られ続け、他方で、その勧奨により日本からどしどしと進出してくる日系の中小企業部品メーカーとの価格競争を強いられることが必然」と云うワケである。
　だから、今から「中国・ラオス・ベトナムへの進出を検討している」とまで云うのである。
　これでは、進出する日本の部品メーカーも同じ運命に陥ること必定。文字通り、日本に残るも・・・、日本から出るも・・・、の世界じゃないか。
　ここまで来て、考え込んでしまった自分である。
　日本の独禁法による優越的地位の乱用などの不公正取引の規制や、買い叩きを規制する下請法制などは、これを東アジア各国どこでも日本同様の規制があり、何れの領域でも従来に増して厳格に運用されるよう、適正規制のグローバル展開がどうしても必要ではないか。東アジア各国との間の経済連携協定のうちに反競争的行為に対する規制協力を盛り込むわが国の公正取引委員会による国際的取り組みが、東アジア圏独占禁止協力協定（多国間条約）にまで発展することを大いに支持したい。
　何れの国にあっても大多数の雇用を担っているのが各国の中小企業である。グローバル大企業と真に共存できるよう、日本を含む東アジア各国の間の理念を明確にした独禁法制の国際条約化が強く望まれる。東アジアに暮らすすべての人、一人一人が幸せになるための必須条件ではなかろうか。

（２０１２年９月執筆）