一般2005年06月01日 苦情処理センターの効用 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:稲田堅太郎
私共が代表処を開設している大連市は中国内有数の日系企業の集積地として知られており、北京や上海に比べても日系企業の集中度が高く、製造業においては外資企業の7~8割を日系企業が占めています。
この様に多くの日系企業が大連に集積しているのは、大連市が沿海開放都市の一つとして港湾等のインフラ整備が進んでいることや地理的にも日本に近く、歴史的にも親日的で生活環境が良好である上に労働力が豊富でかつ教育程度も高く、特に日本語のできる人材が豊富なことなどがその理由として挙げられています。
2000年8月に代表処を開設してから間もなく5年になろうとしていますが、未だに中国語が覚えられないのは私の周囲に日本語のできる優秀なスタッフが存在するからであり、月に1~2回の割合で日中間を往復する生活を送っていますが、大連に帰ってくる毎に、新しい日本料理店が開店していることなど日本人にとって極めて生活環境がいい証拠ではないでしょうか。
大連市では投資プロジェクトに対する「ワンストップ・サービス」(窓口一本化その他)はいうに及ばず、日系企業との定期懇談会の開催や外資企業からの苦情処理対応など他地域に比べて外資企業に対する迅速適切な行政サービスが行き届いていることが日系企業からみて大きな魅力になっているものと思われます。
私が注目している行政サービスの一つに大連市対外貿易経済合作局の下に設けられている大連市外資系企業クレーム(苦情処理)センターがあります。
大連市人民政府令第34号に基づいて設立されたものであり、より良い投資環境を提供するために窓口を設け、無料で苦情処理をするという制度です。大連市に在籍する全ての外国人ビジネスマンならびに外資系企業の苦情を受け付け、迅速に調査、協調、指導、監督、処理等々をへて解決をはかろうというものです。苦情受理から相手方への連絡、調査、解決まで約1ヶ月。苦情受理後3日以内に相手方に連絡をなし、1週間の調査を経て、2週間で解決に至らしめるということで、到底、日本国内における裁判や調停制度では考えられないような早期結着をはかるシステムとなっており、大変調法がられています。
御承知のように中国では一般的に裁判所ないし裁判制度に対する信頼度が低く、私の友人の中国人律師(中国の弁護士)らも、自分の担当する事件処理については、出来るかぎり裁判手続による解決を避けようとする傾向があります。
この様な実情を反映してか、大連市における行政サービスの一環である苦情処理センターによる解決を求める件数も多く、年平均にして約300件にも及んでいます。
本来の苦情処理の中味は、電力、環境、工場移転など政府関連の案件が中心となっていますが、企業内部の株主間紛争や企業間の取引にからむ案件なども数多く見受けられ、現に私が相談をうけた企業間取引にからむ紛争事案も、苦情処理センターを活用することによって早期解決をはかることができました。
ところで、最近のトラブル相談の中で目立って多いのは、充分な事前調査もなしに中国人に金を出して中国人名義で事業をやらせたところ利益が出ているにも拘わらず、分配金をくれないとか、拠出した金を返してくれないといった相談であり、苦情処理センターでも同様のケースが見受けられるとのことです。
しかしながら資金を出しているにも拘わらず、事業名義人は相手方の中国人であり、金を拠出したという証拠書類も無いような場合には救済の施しようがありません。
中国という外国において何らかの事業をやる以上、事業目的にそった充分な事前準備と調査が必要なことはいうまでもありません。
何よりも大切なことは時間をかけて、信頼のおける優秀な中国人スタッフをパートナーとして獲得することではないでしょうか。
(2005年5月執筆)
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