カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

一般2013年01月08日 久しぶりの上海は穏やかだ 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:菅原哲朗

1 小雨の上海
 2012年11月8日から北京で第18回中国共産党大会(注1)が開催されているなか、11月9日羽田から上海(虹橋空港)に向かう。反日デモの襲撃映像が日本のテレビで毎日報道された時の「近々に訪中を予定されている方は、十分に安全に配慮した上で計画を立てるよう、細心の注意が必要です」との助言の影響か(?)2ヶ月経過しても、コードシェア便の日本航空は4分の3程度の乗客で空席が目立った。
 たまたま近くに乗り合わせた老夫婦と若夫婦の4人家族が、同じオークラガーデンホテル上海 (花園飯店上海) だった。エレベータで若奥様が同じ日本人とわかって「日本を出るときは、中国に行くのは危険だと皆に言われましたが、上海に来てみるとデモもなく安心ですね」と本音を話してくれた。
 確かに北京は街に警備の公安が目立つ、いわば戒厳令状態だが、近代的な2,400万人都市に発展した小雨の上海は草花も綺麗で平穏無事だ、これから冬に向かい寒くなる。

2 組織化された反日デモ
 9月15日から18日に発生した日本政府による沖縄県の尖閣諸島(中国名・釣魚島)の国有化に抗議する中国各地の反日デモは、1972年の日中国交正常化以降、最大規模と言われ、約80の都市で頻発した。中国外交部の報道官が記者会見で反日デモを容認するかのような発言をしたため、一部の都市ではデモ隊が暴徒化し、日本車が破壊されたほか、各地で日系の百貨店やスーパーが略奪の標的となった。

 上海に長く駐在する日系銀行マンは、9月15日に蘇州(注2)はデモの暴徒にやられ日系企業は大きな損害を受けたが、上海は問題ないと話す。広州から来た日系企業の社長は、確かに反日デモが組織されたが、広州市(注3)ではデモ隊による大きな被害もなく、中国人女子社員の両親が会社に来て娘は安全かと確認されたことが印象的だ。物怖じしない日本人社長の顔を見て落ち着いて帰ったのだが、これも反日デモの影響ですかね、と明るく語ってくれた。
 中国では、立法・行政・司法の三権分立制や普通選挙制を採用せず、民主集中性の政党である中国共産党「総書記」、国家政府である「国家主席」、人民解放軍を統率する「中央軍事委員会主席」が、権力の源泉である。
 中華人民共和国憲法によって、中国は中国共産党の指導の下に存在し、社会主義の革命と建設のために中国共産党の指導を仰ぐとされている。
 それ故、憲法第5条における「中華人民共和国は法に従い国を治め、社会主義の法治国家を建設する。」との記載、そして憲法第2章公民の基本的権利及び義務第35条「中華人民共和国公民は、言論、出版、集会、結社、行進及び示威の自由を有する。」との記載はあるが、中国共産党の指導・容認しない反日デモはあり得ない。

3 日系中小企業撤退の流れ
 上海は多種多様の外国人が居住する。日本人も駐在員とその家族、会社を経営する自営業者、留学生、長期出張者など日本人が正式登録する人口は5万人を超えるといわれている。
 安い労働力を求める日系繊維産業は、タイ・ベトナムなど広く東南アジアに生産拠点を移していることは周知の事実だが、日本車不買運動で大手自動車産業が軒並み減産となった事実は、今回の反日デモが靖国神社参拝や国家間の政冷経熱から、個人間のレベルまでカントリーリスクが拡大し、日本人に引き潮のように上海から音もなく引き上げる雰囲気を醸成させた。
 日系の中小企業は、巨大な中国市場への拡大を見据えながら、撤退を選択肢の一つとして念頭におく企業活動が続くと予想できる。
 他方、日本との貿易で経済力をつけた地場の中国企業は、反日デモ後に日本より安心感のある韓国へと中国人観光客が流失したのを受け、中国国内の富裕層に人気が高まる韓国企業との貿易を通じて成長を続けようと画策している。

(2012年12月執筆)


注1
 中国共産党は2012年11月14日、第18回党大会で新たな中央委員205人を選出し、最高指導部の政治局常務委員会(現9人)のうち、胡錦濤総書記や温家宝首相ら7人の引退が決まった。
 中国共産党の第18期中央委員会第1回全体会議(1中全会)が15日、北京で開かれ、習近平・国家副主席が党総書記に就任した。最高指導部である政治局常務委員のメンバーも9人体制から7人に減員されて選出された。

注2
 中国江蘇省蘇州は、清代末期から紡績業などが盛んで、改革開放政策の初期から多くの日本企業が進出し、大勢の日本人駐在員とその家族が居住する。2012年9月15日の反日デモは商業街などで生じ、商業街を破壊し、暴徒化したデモ隊が中国人経営で従業員も中国人の飲食店を破壊し、日本車をひっくり返した。平和堂が焼き討ちされた湖南省長沙市ほどではないが、暴徒デモは日系百貨店泉屋に向かい、シャッターを下ろしていたにもかかわらず襲撃・破壊した。

注3
 中国広東省広州では、日本総領事館前に集合した数千人のデモ隊が気勢を上げたが、日本総領事館に被害はなく、デモ隊は約1時間後に、警察によって建物の外側に排除された。

一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 全115記事

  1. 中国所在の不動産を巡る紛争と裁判管轄の問題
  2. 「老後は旅先で」~シニアの新しい生き方~
  3. 中国に出資しようとする外資企業に春が来た
  4. 「企業国外投資管理弁法」の概要
  5. 楽しさと便利さが、庶民の生活を作る。
  6. 中国会社法「司法解釈(4)」の要点解説
  7. 日本産業考察活動メモ
  8. 長江文明・インダス文明、再来の始まりを予感
  9. 中国国務院より「外資誘致20条の措置」が公布されました
  10. 中国の対日投資現状とトレンド(2)~中国の対日投資の論理とトレンド~
  11. 観光気分の危機管理
  12. 訴訟委任状に公証人の認証が必要か?
  13. 『外商投資企業設立及び変更届出管理暫定弁法』の解説
  14. 婚活は慎重に!とある中国人女性と日本人男性の事例
  15. 新旧<適格海外機関投資家国内証券投資の外国為替管理規定>の比較
  16. 中国では、今年から営業税から増値税に切り換え課税するようになりました。
  17. 土地使用権の期限切れ
  18. 過度な中国経済悲観論について思うこと
  19. 『中華人民共和国広告法(2015年改正)』の施行による外資企業への影響(後編)
  20. 203高地への道
  21. 中国大陸における債権回収事件(後編)
  22. 中国大陸における債権回収事件(前編)
  23. 訪日観光は平和の保障
  24. 大連事務所15周年&新首席代表披露パーティーを行いました
  25. 再び動き出した中国の環境公益訴訟
  26. 「国家憲法の日」の制定
  27. 中国独占禁止法
  28. 道路の渡り方にみる日中の比較
  29. 日本の弁護士と中国の律師がともに講師となってセミナー
  30. 日中平和友好条約締結35周年に思う
  31. 中国におけるネットビジネス事情
  32. 敦煌莫高窟観光の人数制限と完全予約制の実施
  33. 両国の震災支援を両国民の友好につなげたい
  34. 公共交通機関のサービス体制
  35. 「ありがとう」を頻繁に口にすることの効果
  36. 久しぶりの上海は穏やかだ
  37. 事業再編の意外な落とし穴
  38. 強く望まれる独禁法制の東アジア圏協力協定化
  39. いまこそ日本企業家の心意気を持って
  40. iPadに見る中国の商標権事情
  41. 人民元と円との直接取引がスタート
  42. 中・韓のFTA(自由貿易協定)交渉開始と日本
  43. 固定観念を打破し、異質を結びあわす閃きと気概
  44. 若い世代を引きつける京劇
  45. 大都市は交通インフラが課題だ!
  46. 杭州市政府の若手職員の心意気
  47. 13億4000万人を養う中国の国家戦略
  48. 「命の安全」を考える。
  49. 大連で労働法セミナーを開催しました
  50. 中国でも「禁煙」規定が発効
  51. 中国における震災報道から思う
  52. IT通信手段は、不可欠だ。
  53. 日本人は計画的?中国人は行きあたりばったり?
  54. 広州・北京に見るストライキ事情
  55. 商業賄賂で処罰
  56. 大連事務所は開設10周年を迎えました!
  57. 顔が見える交流
  58. 日本は人治、中国は法治?!
  59. 日本の公証人制度
  60. 充電スタンド建設の加速
  61. 上海の成熟した喧噪と法意識の違い
  62. 中国における日本人死刑執行の重み
  63. 中国の富裕層は日本経済の「救世主」か
  64. 日本に追いつき追い越せ/パートII
  65. 国際交流を望む中国研究者にとって日本は遠い国だ
  66. 「文化産業振興計画」の採択
  67. 国慶節に思う
  68. IC身分証明と在日外国人取締強化
  69. 「日本人は・・・・・」「中国人は・・・・・・・」
  70. 中国の携帯電話産業
  71. メラミン混入粉ミルク事件
  72. 大連市の公証人役場
  73. 東北アジア開発の動きと長春の律師
  74. 循環型経済促進法の制定
  75. 北京オリンピックと私たち
  76. 四川大震災に想う
  77. 日・中企業間の契約交渉の実例
  78. 東アジア共同体
  79. レジ袋の有料化
  80. 通訳の質について
  81. 「中国餃子バッシング」に思う
  82. 中国の休日
  83. インドを見てから、あらためて中国を見る
  84. 日中韓の国境は障害を乗り越え、確実に近くなっている。
  85. 北京市の自転車レンタル事業から中国の環境政策を見る
  86. 福田首相と日中友好
  87. 上海の空、東京の空 四日市公害裁判提訴(1967年)から40年後の今に想う
  88. 物権法の制定過程
  89. 司法より行政に権力がある
  90. 中国の『走出去』戦略を読む
  91. 中国の環境問題
  92. 中国のオーケストラ
  93. 春節
  94. 「いじめ」は共通語だ!
  95. 中国を見る眼
  96. 最高人民法院を訪問しました
  97. 機内食のコップ あっという間の進歩
  98. 冷静な眼と暖かい心
  99. 自主的な総合的力量を備える
  100. 宴席は丸か四角か
  101. 「十一五」規画始動!
  102. 依頼人の人権擁護
  103. 身の安全
  104. 中国で「勤勉さ」を学ぶ
  105. 203高地や旅順口などの戦跡を訪れて思う
  106. 「ソウルで味わった韓流の逞しさ」
  107. 中国と日本の立法・行政・司法
  108. くれぐれも御用心
  109. 海外旅行は、法リスクの宝庫だ。
  110. 互いの理解
  111. 信頼関係の形成に向けて
  112. 中国憲法における「改革・開放」路線
  113. 苦情処理センターの効用
  114. 信頼できる中国人パートナーを得る
  115. 外国への進出と契約
  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索