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その他2007年08月01日 物権法の制定過程 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:稲田堅太郎

 2002年以来、全国人民代表大会(全人代)常務委員会で審議を繰り返してきた物権法がやっとのことで本年3月の全人代で成立しました。
 2005年7月に草案の全文が公表されて民間からも意見が募集されることになったこともあってメディアの注目を集めるようになり、全国から1万件を超える意見が寄せられたり座談会や立法論証会が100回以上も開催されることとなりました。
 とりわけ、北京大学の教授が、公表された草案に対して社会主義の原則および憲法に違反するという内容の厳しい批判をインターネット上に発表したことでにわかに注目度が高まっていったものです。
 御承知のように中国は社会主義市場経済の国であり、新たに制定された物権法もその冒頭において「国の基本的経済制度を保護し、社会主義市場経済の秩序を保護し、物の帰属先を明確にし、物の効用を発揮し、権利者の所有権を保護するために憲法に基づいて本法律を制定する」と明記されています。
 しかしながら社会主義市場経済というのは矛盾した概念であって、社会主義の原則に立てば、公有制の保護を優先させて私有制を制限するべきだという考え方になり、市場経済の原則に立てば所有の主体は平等に扱わなければならないという考え方にならざるを得ないことになります。
 さきの北京大学教授の批判は公表された草案が所有の主体を平等に規定していたことに対して向けられたものでした。
 これをうけた全人代の法律委員会も、この点を問題にして公表されていた草案(第三稿草案)に修正を加えて、公有制の優位性や国有経済の主導的地位を明記した第四稿草案を作成するに至ったものです。
 この様に白熱化した論争が続く中でこの問題が政治問題化することをおそれた指導部が昨年の全人代で採択する予定であったものを本年3月まで繰り延べる決断をしたものといわれています。
 しかも、今回の全人代に提出された草案は原則部分で第三稿草案に立ち戻り、社会主義の原則と市場経済の原則とが同列におかれたものとなっているのです。
 5年間という長期に及ぶ審議過程といい、この間、全国から1万件をこえる座談会や立法論証会の開催、インターネット上の白熱した論争などをふまえながら、根気よく審議を尽くして、やっとのことで採択された今回の物権法の成立。
 隔月に開催される全人代常務委員会で法律が採択されるには通常3回の審議を経る決まりになっているものを今回の物権法の制定では常務委員会で7回審議されたのちに全人代で採択されたと言われています。
 しかも、今回の全人代においてさえ60ヶ所余りの修正意見が提出されたという事実から見ても、非常に困難な起草作業を民間の声を反映させながら、地道にやりとげた様子がうかがい知れます。
 一般的に中国は民主主義の国ではないといわれておりますが、今回の物権法制定にかけられた審議過程をながめていると、草案の公表から民間の意見の聴取をふまえて審議を尽くすという極めて高度な民主的手続をふまえているものと思われます。
 どこかの国の国会における強行採決に比べてみても、いずれの国が、より民主国家なのかと思わざるを得ません。

(2007年7月執筆)

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