一般2006年04月05日 身の安全 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:稲田堅太郎
私が大連代表処の首席代表となり、半常駐の体制(年間183日以上の中国内滞在)で大連市に居住するようになったのは、2003年春のSARS騒動の最只中でした。
当時、中国から脱出する人が続出するなかでの長期滞在を敢行した勇気ある日本人ということで現地の中国人からの私に対する信頼感が非常に高まりました。
爾来、月に1、2回の割合で日中間を往復するという生活スタイルとなり、この間に私が訪れた中国国内の城市は50を超え、最近では大連での生活にも大分慣れてきました。
時間に余裕のある時は、できるかぎりタクシーに乗らないで、バスを利用したり、自分の足を使って街中を闊歩するように心掛けています。
私は常識的な日本人なので赤信号に出会すと立ち止まり、青信号に変わるのを待つことになりますが、ほとんどの中国人は信号待ちをしている私を尻目に、一旦停止や左右確認もしないで信号を無視し、平然と車道を横断していきます。私はといえば、青信号にしたがって車道を横断することになるわけですが、これには右折する車が私の進行方向の前方にどんどん割込んでくるため危険極りない状況になって立往生せざるを得なくなります。一日に数回も街中の至るところで交通事故発生現場に出会すこともあり、一体この国の交通道徳はどうなっているのかと腹立たしくなることも度々です。関係者の話では、これでも他都市に比べて大連市の交通マナーは優れているのだそうです。
中国では、2004年5月1日に「道路交通安全法」およびその実施細則である「道路交通安全法実施条例」が施行され、それまで道路交通事故における人身損害賠償の範囲および算定方法の基準となっていた「道路交通事故処理弁法」が廃止されました。それと同時に、最高人民法院(日本の最高裁判所に相当する裁判所のこと)の司法解釈(日本の場合、具体的な事件について裁判所が法律を適用して判断を下し、個々の判例の積み重ねが判例法として形成されていきますが、中国の場合は個々の判例は重要な意味を占めておらず最高人民法院が実際に法令をどの様に解釈し通用していくかの解釈の指針を出すことになります)である「人身損害賠償事件の審理にあたり適用される法律に関する若干の問題の解釈」が施行されて、道路交通事故をふくむ全ての人身損害賠償事案に関する賠償範囲や損害額算定方法の新しい基準となりました。
2004年の全国民間自動車保有台数は2000万台を超えたといわれる状況下において中国では交通事故による死亡者数も2001年から3年連続して年間10万人を超えたこともあり、中国政府としても、交通事情の改善や運転手および一般市民の交通マナーの改善に迫られた上での新法の施行だといわれています。
新法においては「人命尊重」を原則として「歩行者優先」を明記し、自動車保険による第三者賠償責任保険を強制保険にすることや、日本と同様に酒酔運転、スピード違反等の取締りを厳しくするために罰金額の約10倍アップや運転免許取消などの罰則強化をはかりました。
しかしながら、新法施行後も交通事情の現実は先述したとおりであり、万一、事故に遭遇した場合でも日本人の常識で考えられるような損害額の賠償を受けられるという保証はありません。
くれぐれも注意をして交通事故に遭遇しないような日常生活を送ることおよび万一事故に遭った場合のために自ら損害保険等に加入しておくことが自分の『身の安全』を守るために最も重要なことだと思われます。
(2006年3月執筆)
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