一般2010年02月01日 日本に追いつき追い越せ／パートII 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者：加藤洪太郎

　中国には東洋でもっとも歴史の古いオーケストラがある。清朝末期に発足し今年で130周年を迎え今や世界を馳せる第一級のオーケストラである。その名は「上海交響楽団」。そこに付属合唱団がある。今回は、その話。

　今年2010年５月29日、上海国際博覧会の会期に合わせ、日中合同でベートーベン作曲の交響曲第九番「合唱付き」を上海は浦東新区にある上海東方芸術中心で公演する。中国側が上海交響楽団によるオーケストラ演奏を受け持つ。合唱はこれを日本側が受け持つ。当然ドイツ語でうたう。筆者が責任者を務める「瀬戸第九をうたう会」が発起し、愛知県内そして全国各地の第九をうたう仲間の参加を得ての訪中大合唱団となっている。

　構想は広がる。せっかくの機会だからと、上海交響楽団付属合唱団も合唱に参加しては?と打診した。昨年の夏のことである。だが答えはかんばしくなかった。中国の合唱団は「第九を中国語で歌っているので無理」ときた。「そうかー・・・・」と合唱の方の日中共演までは無理かとあきらめ気分となっていた。
　ところがである。その暮れに打ち合わせに訪中したところ、交響楽団付属合唱団も参加する、ときた。つい、「どうして?」と尋ねてしまった。
　答えはこうである。
　「日本のアマチュア合唱団がドイツ語でうたうというのに、中国の合唱団にできないはずはない。やろう！」と云うことになった、とのこと。

　以前、中国の航空機内食にでてくるプラスチックのカップのことを書いた。そのことを瞬時に想起。射出成形が未熟でバリもとれぬカップからはじまり、数年を経ずしてバリのない滑らかな縁のカップになった。日本と遜色ない品質になったなー、とその改良の早さに感心。驚愕したのは中国はそれで終わらなかったからである。それから間もなくして、日本の航空機内ではお目にかからないカットグラス様のデザイン模様まで入ったプラスチックカップがでるようにまでなった、あの話である。
　日本に追いつき日本を追い越す。しかもアートの心を技術に転化する次元で。
　この勢いが合唱団にもあったのである。
　で、課題を投げかけた日本の合唱団もいっそう勇気づけられた。

　この５月29日、「時代の潮流が残酷に切り裂いたものを、再び結びあわす。すべての人間は兄弟になる！」（第九の詩文）と、日中両国で編成する大合唱団が上海でうたう。　文化活動の日中合弁はこうして互いを刺激しあい高めあって協力関係を発展させ、歌うもの聴くもの皆々に感激をもたらす結果を創り出すに違いない。競争を超えた共創である。

（２０１０年１月執筆）