一般2011年04月01日 IT通信手段は、不可欠だ。 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:菅原哲朗
1 2011年3月3日、約20年振りに曇空の寒い台湾を一人訪れた。
東京の羽田国際ターミナルと台北市内の松山空港(Song shan Airport)を3時間35分で結ぶ新航空路線のおかげで直ぐに異国風情となる。狭い道路とバイクを避ける台湾人タクシー運転の荒っぽさは変わらないが、交通渋滞の北京・上海の喧噪たる雰囲気と比較し、町並みは落ち着いている。目に入るビル看板の中国語も簡体語でなく繁体語で、日本人にとって違和感が少ない。ホテルロビーも日本語スタッフが充実している。
もちろん、談笑する若者に反日感情はない。台北は大日本帝国台湾総督府の所在地だった。戦前の日本帝国主義の植民地時代を「日治時代」と書き、古き良き日本人の料亭「紀州庵」の木造建築物や和風庭園を市定古跡文化財として保存しようとしている。老人世代と異なり、若い世代は日本語より英語が中心だ。日本に留学経験のある若社長は、中国大陸との商取引がなく香港・海南島には遊びで行ったことがあるが、中国本土に足を踏み入れたことは無いと話す。
2 中東アラブ諸国に巻き起こった反政府・民主化デモで、携帯電話映像とフェイスブックが市民の通信手段として使われ、国民に自由を与えない独裁政権を崩壊させる革命の武器となった。2年前にフェイスブックがアラビア語対応となり、ネット人口が増大して国民間の連携を一気に広げ、エジプトでは20代の若者が、フェイスブックを使って大規模な反政府デモを指揮した。
言うまでもなく、最新のIT通信機器は必須の武器である。
海外から日本への連絡は持参したノートパソコンをインターネット回線に繋ぎスカイプの無料電話でホテルから簡単にとれる。しかし、交渉相手の出先オフィスから携帯電話で日本へ高い国際ローミング通話をするのは避けたい。
松山空港内の「中華電信」直売の携帯電話売場でプリペイドのSIMカードを買い忘れ、市内の携帯電話売り場に向かった。店員はパスポートと日本運転免許証が無ければ売れないと断る。「職業は弁護士だ。台湾で運転しないので免許証は日本に置いてきた。クレジットカードを身分証明に出来ないか。」と何度となく店長と交渉中に突然、警察官が顔を出し、彼の意見も二つの身分証明が無ければ売れないと言う。確かに匿名性の強いプリペイドカードの携帯電話は、犯罪につながり日本でも禁止となったが、台湾も同じかと、がっかりした。
しかし、台北市内と異なり、帰国前に再度立ち寄った松山空港内は、無料の「網際網路服務」(インターネットサービス)があり、中華電信コーナーでは、日本語表示で350元分の通話料を300元で売るとの割安サービスもあった。そこでは、日本人パスポートの提示のみで、市内で断られたSIMカードが簡単に購入出来、早速日本に電話できた。
3 公式訪問の他に時間を作って国立故宮博物院と2010年台北国際花博覧会に顔を出した。
北京に足を運ぶと万里の長城と故宮見学が観光コースだ。しかし故宮の中にあった財宝は、国共内戦で敗戦が濃厚となった蒋介石率いる国民党政府が台湾に運んだので、北京では広大な敷地に存する巨大な黄色建物群しか見ることが出来ない。短時間だったが国立故宮博物院の1階から3階まで展示された文物を約20年振りに見て、古代から近代へ中国の歴代王朝が収集した中国美術品への感動を新たにした。国宝級の財宝を数多く所蔵展示しているので館内見学者は多く、ガイド引率された拝観者も欧米人旅行客、日本人団体ツアーと地元台湾の中高生、そして中国大陸からの中国人団体客も多いという。
花博会場は欧米・アジアの外国人も混じり、やはり地方の台湾人が多い。上海万博と異なるのは、2時間待ちをする未来館やドリーム館への群衆の列を規制する鉄杭が台北国際花博覧会には無いことだ。
花博会場でインターネットが入場客に無料で使用可能との表示を見つけた。そこで持参したiPadで無線LANサービスを試みた。特設案内所で係官から、はじめパスポートも運転免許証も持参しない外国人客には無料のIDを発行できないと断られた。しかし、「中華電信」も花博提携スポンサーで、外国人にオープンな台北国際花博覧会のはずと交渉の結果、パスポートの番号と日本国内の連絡先を申請書に記載すれば証明書類を見せなくても許可となった。
4 現代中国は経済成長が持続的に進む一方、国民の所得格差が拡大し、物価上昇・違法な土地収用・環境汚染・幹部の腐敗など、多くの国民が不満を持つ時代となっている。
インターネットで呼びかけられた中国の政治改革を求める「中国ジャスミン革命」集会予告に対し、中東のような事態にはならないように中国政府は北京や上海など各都市で大量の警察官を動員して封じ込めを徹底し、厳戒態勢をとった。
さらに海外メディアに対する厳しい取材規制もなし、集会予定現場にいた欧米・日本人記者は警察署に連行され、事情聴取を受けたという。
ホテル朝食時以降閲覧できなかった日本のメールを花博会場の片隅でゆっくり確認しつつ、過敏に「ジャスミン」の合い言葉を規制する社会主義市場経済の中国と常に大陸と緊張関係にありながら資本主義台湾との大きな違いは、市民の情報入手に開放的な社会か、否かだ、と実感した。
(2011年3月執筆)
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