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その他2016年02月08日 中国大陸における債権回収事件(前編) 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:菅原哲朗

はじめに

 大連周水子国際飛行場は、電池・バッテリーの荷物検査がうるさい。成田ではノートパソコンを別枠の籠に分けるが、大連ではその必要はない。しかし、iPhone用の小さな携帯バッテリーが引っかかり、結局旅行バッグを開封する事態となる。国が変わればルールも異なる。とりわけ日本で駆使するGoogle検索が中国では事実上全く使えないのは困ったことだ。

第1章 日本での裁判

1 平成25年春、依頼人Xが法律事務所を訪ねて来たのはネット検索からだった。10年前、中国人Yに上海で建設ラッシュのマンション購入資金の一部として500万円を貸した。最終返済期限は10年と長期だ。Xは郵便貯金口座を解約して現金で手渡した。まもなく返済期限の10年が到来するが、最近は電話・メールがつながらず、返済しない。上海は不動産が高騰している。5年前Yはこのマンションを売って、3倍以上の中国元を取得しているとの噂だった。そこで上海に行って、現地知人の紹介で中国人の律師(弁護士)に委任し返済の交渉をしてもらった。双方代理人律師が話し合った結果、まだ5年しか経過していないが半分の250万円なら返すとのYの言い分で、全額500万円を返す清算義務はないとの屁理屈を言われ、Xは断固拒否し帰国した、という。Yは日本滞在中と人間が変わり信頼が裏切られ納得がいかない、との話だ。Xの持参した借用書は日本文と中国文があった。確かにYは返済期の平成25年より前でも経済的に余裕ができ可能となればいつでも清算し、将来10年後には元金500万円を必ず返済するとの内容で、日本の住所地とY自身が日本語と中国語で手書きして署名捺印し、パスポート・中文の戸籍証明のコピーも添付された正真正銘の「金銭消費貸借契約書」だ。
 提訴する証拠は十分だが、しかしYが日中間にそれぞれ資産を隠し、東京と上海を往復しているなら債権回収は中国大陸内の資産にも強制執行をなすことにもなり、二重の訴訟経費がかかる。
 Xは金のことより、10年の間には必ず返すと約束しながら筋を曲げ、人間の信頼を裏切るやり口に怒りが収まらない。日本でも中国でも約束を守るのが信義だ。

2 平成25年11月、Xは東京地裁に貸金返還請求事件を提訴した。たとえ欠席判決でも判決確定から10年間強制執行力があり、被告Yの日本における隠匿資産を追い求めることができるからだ。
 東京地裁は訴状を中国大陸の住所地に送達すべく、被告Yが日本に住んでいるのか?中国にいるのか?明らかにせよとの釈明だ。もし、被告Yに不送達なら公示送達するため、滞在ビザが切れて、10年前の日本の住所にいないとの上申書を提出した。そしてパスポートを基に東京入国管理局に対し被告Yの出入国を明らかにすべく弁護士会照会をなした。回答によると、この2年ほど入国の事実がないと分かり、訴状副本と期日呼出状を中国語に翻訳して被告Yの実家である中国の住所地に送達することになった。訴状送達は、東京地裁から最高裁を経て、中国の最高人民法院経由で地元の人民法院に渡り、被告Yの住所に送達される。
 問題は時間だ。中国への海外訴状送達は往復に約半年かかるので6ヶ月先の弁論期日および被告Yが日本の法廷に出頭しないことを想定して、予めさらに1ヶ月先の2期日を指定してもらった。EMSなど国際宅急便・FAX・電子メールのやり取りが当たり前の時代に、紙製の訴状を裁判所が海外に住所のある被告Yに送達するには約半年かかるのが現実だ。 

3 平成26年5月に訴状送達の結果が東京地裁に戻った。予想通り現地人民法院の送達報告書には被告Yは住所地に居住していないし、被告Yの家族も居住しておらず訴状は送達不能と記載されていた。両親・兄弟の家族は住んでいるはずだが、中国語の公文書たる送達報告書には誰もいないとの回答だ。さらに、東京地裁は公示送達のため被告Yが未だ上海のマンションに住んでいる可能性もあり、と不在住調査の釈明を出した。我々は、既に上海への事前調査で被告Yが購入したマンションは売却済みと分かっていたが、再度法律事務所スタッフを現地に赴かせ証拠写真を添付して被告Yが居住していない旨の調査報告書を提出した。
 やっと公示送達による民事勝訴判決を原告Xは受けた。

(2016年1月執筆)

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