一般2005年04月06日 外国への進出と契約 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:加藤洪太郎
■ 外国でのパートナー
大手企業の中国移転へのシフト、安い労働力獲得、こういった要因から中小企業の中国への進出も盛んだ。自社単独で体勢を築こうにも地縁血縁もなく何ともならない。そこで、中国の企業や人との合弁でのぞむケースが多い。合弁のパートナーに相応しいか、その人となりを知ることからして難しい課題だ。外国人の人物判断ともなれば、五感の総合的働きをまさにフルに発揮することが求められる。
■ そして契約書
よし、この人物なら一緒にやれる、と心に決めて手を結ぶ。そして、出された契約書に、よく検討もしないで、調印してしまう。系列社会に慣れた日本人の感覚だ。「何か言っても力関係が違うから何ともならない」「だが、甚だしくは悪いようにしないだろう」「大事なのはお互いの信頼関係だ」で、確かに昔の日本では通ってきた。
加えて、相手の言葉と契約書の文字とが違うことも多い。だが、「オレと彼の人間関係、信頼関係があるから大丈夫だ」と、違いを知りながらこれを軽視して調印してしまう。
■ こんな筈では
ところがである。イザ合弁経営が進むと、相手はきわめてシビアーだ。契約書に書いてあるとおりの権利を主張してくる。他方、こちら側の権利はあれこれ考え抜いて盛り込むと云うことがしてない。「えらい不平等やな」と云っても契約書の通りだと云われれば文句のつけようもない。こうして相手に引きずり回される。結果、外国のパートナーへの不信感にとりつかれる。「あの国の人はダメだ」と。
■ 常識?
だが、日本人の「常識」は海外では非常識、とよく言われる。互いの協力・合弁契約にあたって、彼我の有利不利を検討し、自分を有利にしようと懸命の駆け引きと工夫をするのは、むしろ契約社会では当然なのだ。これが「常識」に反すると思う方が非常識なのだ。
ある合弁交渉のこと。外国側は日本側に対して「我が方と組めば貴社にはこんなにメリットが・・・」と八項目にも及ぶメリットを列記。日本側は、呈示された八項目を「なるほどそうだ」とか「そうでもない」とか受け身に検討。反対に、日本側が外国企業側に「当方と組めば、貴社にもこんなメリットが」など例えば十項目に及ぶ事由をあげることなど思いもしなかった。自分のメリットばかり検討していたのだ。
日本側が相手に引き込まれ、それまで天秤にかけていた他社から軸足が離れるにしたがって、相手が提案してくる契約条項が増えていた。勿論、相手に有利な条項が。
■ 例えば中国
商人の商の字は、交易を盛んにした「商王朝の人」に由来する。3500年前の商の末裔たちと、当時、有史以前の状態だった縄文人の末裔とでは、商人としての歴史の深さが違おう。「中国三千年の歴史」は漢方薬だけではないのだ。
■ 原則にかえって
日本と進出するその外国との間の関係について、これまでの経緯、今後のあるべき方向、などについて客観性ある見識をもち、そして、その制度、そこでの民間企業活動の意義づけ、人々の考え、教育、等々、正確に知ることから始めるべきだろう。そうして、対等平等の関係を個別具体的に創造するための契約交渉を原則にかえってきっちりとすべきだ。
国内で他社や他人との協業に成功した実績がないばかりか、その本格的な経験もないまま、外国で合弁して起業しようと飛び出すのはどうも蛮勇の様に思われて仕方がない。
まずは、横々型の、つまり、ありきたりでない非典型的な協業関係を創造する努力を、この日本国内でも重ねる必要があるのではないだろうか。
(2005年3月執筆)
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