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一般2006年05月10日 依頼人の人権擁護 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:菅原哲朗

1、上海での話。
 民事では「取引安全の原則」「自由平等の原理」が国際ルールだが、中国では外商投資企業優遇政策は時の要請により変わり、朝令暮改が当たり前となる。脱税が平然と横行するので改善すべく税法制が変化し、直ちにしかも遡及的に効力が及ぶので「法の支配」が安定性を欠く矛盾を孕んでいる。中国人律師も金銭に関していえば、中国社会の風習・慣習に強い影響を受けて、すべての利益を依頼人に帰属させるべきという弁護士倫理の理解が足りず、金銭の出所と依頼人が異なる場面で、支払人の影響を受けやすい。
 これが刑事に絡むと面倒なことになる。刑事被疑者として逮捕され警察の代用監獄に身柄が拘束された在日の中国人に、日本の弁護士制度が社会から在野法曹として信頼されている根本的な基礎を理解させるのは極めて困難と言ってよい。なぜなら中国人律師は、歴史的には司法部の下級公務員であり、「改革開放」による社会主義市場経済の結果、民間人たる中国司法の担い手として中国人律師の地位が高まり発展途上にある段階だからだ。
 日本人弁護士は刑事弁護人として選任されれば、信頼して委任する依頼人の権利を100%確保すべく弁護活動をなす根本理念があり、日本人でも中国人でも差別はしない。刑事被疑者が無罪だとの確信を得れば、ときには警察・検察の司法権力と全面的に対峙して無罪主張をなす。例え刑事の国選弁護料が、国家から支払われても国家権力に対抗することが正義であり、現実的に戦うことができる立場にある。しかし、そのことをいくら説明しても、被疑者には理解できない。警察の接見室のガラス越しに権力の手先の如き視線で見る被疑者を前に、私が接見に言って最初に苦労することがこの弁護士に対する歴史文化の違いだ。

2、東京での話。
 日本国憲法第34条前段は、何人に対しても基本的人権の一つとして逮捕勾留される際の弁護人依頼権を保障し、同条後段では公開の法廷における勾留理由開示請求権を定めている。
 中国人の青年が民事絡みのトラブルで逮捕された。被疑者の青年(以下「彼」という)は大学を卒業し、日本でエンジニアとして働いていた。東京地裁刑事14部での勾留質問の際に弁護人選任権を告知され、書記官から私に彼が弁護人を希望していると電話があった。被疑者段階のため、東京地検に弁護人選任届を提出し、なぜ民事紛争が刑事事件となったのかを知るべく東京地裁から勾留状謄本を取得した。接見禁止となった勾留状記載の被疑事実は複雑で多岐にわたり、弁護人接見で彼の弁解を聞くうちに「これは無罪事件だ」との感触を得たので、弁護士3名で弁護団を組み刑事弁護に取り組むことにした。
 何度となく警察へ接見に行っても、「権力の手先の如き視線」で彼と我々との意思疎通は図れない。「真実を語れ」「日本人弁護士を信頼しろ」と怒鳴り合いとなる。特に中国人の場合、外国人であるため逃走の虞が有りと安易に判断され、逮捕後の勾留延長が続けられる。そのため捜査段階で自白強要がなされ勝ちで、刑事被疑者としての権利が侵害される可能性が高い。そこで、無罪の彼を違法不当な勾留から救済すべく「勾留理由開示請求」を裁判所に求めた。中国人通訳を介して、弁護団は無罪主張を基本に勾留理由の求釈明をなし、逃亡の虞も証拠隠滅の虞もないと弁護人らの意見を陳述し、担当裁判官に勾留要件の存否・必要性の再検討を促した。もちろん彼に法律専門家たる我々の意見を公開の法廷で聞かせ、勾留中の彼の心にある緊張を解かせ、日本人弁護士が「依頼人の人権を100%擁護」して闘う姿を見せた。
 彼は無事に処分保留のまま釈放となり、結論として検察官は立件せず不起訴処分とした。

(2006年5月執筆)

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