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企業法務2024年07月23日 中国「会社法」改正のポイント 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:中島宏治

1 中国「会社法」が改正されました
2023年12月29日、中国の全人代常務委員会において、中国「会社法」の改正案が可決されました。施行日は、2024年7月1日が予定されています。
中国では1993年12月の会社法制定後、何度か改正が行われていますが、今回は大幅な改正となりました。
主な改正内容のポイントと、日本企業に影響がありそうな点をピックアップしてみました。なお、以下の説明では有限責任会社と株式会社の両方に共通する内容ということを前提とし、有限責任会社の持分権者のことも理解しやすいよう「株主」と表記しています。
2 ポイント①~会社資本制度の改正
中国会社法では、会社設立を容易にするために、最低資本金や払込期限の規制が撤廃されるなど、資本金規制が緩和されていました。ところが、会社設立が容易になる反面、資本金がないことにより、取引先や債権者の保護が不十分になる等の問題が生じていました。
そこで、新会社法では、会社設立日から5年以内にその引き受けた出資額の全額を払い込む制度が復活しました。これは施行前に設立されている会社にも適用されます。
また、期限までに全額払い込まれない場合には、出資義務違反による損害賠償責任が発生するほか、持分を喪失する失権制度もあります。
このように、会社資本制度の充実をめぐる改正が1つの柱となっています。
3 ポイント②~会社組織・ガバナンス制度の改正
新会社法で、会社組織・ガバナンスに関する制度の変更がありました。
董事会の権限に関しては、株主会からの権限移譲が明文化され、董事会の権限強化が図られています。
また、董事・監事・高級管理職の忠実義務と勤勉義務が明確化し、これら役員の義務強化がされました。利益相反取引や商機奪取・競業に関しては董事や高級管理職だけでなく、監事にも規制が適用されるなど、規制が強化されました。
ほかにも、第三者に損失をもたらした場合の董事・高級管理職の賠償責任の規定も新設されています。
株主や実質的支配者の責任強化もされています。
また、株主の全会一致の同意によって、監事会を設置しないことも可能となりました。
4 ポイント③~会社制度に関するその他の重要事項の改正
その他、新会社法では、株主の知る権利や持分買取請求権制度が整備されました。また、従業員の意見を取り込む従業員権益保護の規定もされ、例えば従業員数300人以上の会社における従業員代表董事の設置義務が新設されました。
また、有限責任会社における持分譲渡の制度が変更となり、株主が第三者に持分を譲渡する際に、従来のような他の株主の過半数の同意を得る必要がなくなりました。
更に、原則として董事により清算委員会が組織されるなど会社清算制度も整備されました。
5 日本企業の現地法人において対応を迫られる改正部分
以上のように、今回の中国会社法改正は多岐に及んでおりますが、特に日本企業の現地法人において対応を迫られる改正部分について検討してみました。
(1) 資本充実に関すること
日本企業の現地法人は、登録資本金を会社設立後速やかに全額払い込む会社が多いと思われますが、未払いがある現地法人はいつまでに払い込むべきか検討する必要があります。
(2) 会社組織に関すること
董事・監事・高級管理職の責任強化が図られたことを受けて、定款の定めによって董事会において責任を免除することや役員賠償保険加入などを検討することになります。
(3) 従業員保護に関すること
従業員の権利保護が新会社法では明確になっているため、例えば従業員数300人以上の会社における従業員代表を董事にしなければなりません。
(4) 撤退に関すること
日本企業の現地法人の撤退にあたっては、清算の場合と持分譲渡の場合がありますが、清算に関しては董事により清算委員会が構成されることになったほか、具体的な規定が明文化されました。持分譲渡による撤退の場合でも、他の株主の同意に関する変更がありますので、手続きについて新会社法に留意する必要があります。
6 おわりに
新会社法は2024年7月1日から施行されますが、今後も実施細則や司法解釈などの追加法令が想定されます。今後の動きに注視しつつ、組織構造やガバナンス、定款などを新会社法に合致させることが日系現地法人の課題となると思われます。

(2024年7月執筆)

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執筆者

中島 宏治なかしま こうじ

弁護士

略歴・経歴

1993年03月 京都大学法学部卒業
1995年11月 司法試験合格
1998年03月 司法研修所(大阪地方裁判所配属)修了
1998年04月 弁護士登録(大阪弁護士会) 法円坂法律事務所入所
2007年04月 日本法圓坂律師事務所大連代表処第3代首席代表に就任
2017年01月 弁護士法人法円坂法律事務所設立、現在代表社員

 日本国内の業務では、一般民事事件を担当するほか、中小企業に身近に役立つ法律事務所として、多くの相談を受け、顧問契約を締結しています。1998年に大阪府中小企業家同友会に入会し、2018年~2023年には支部長を務めました。
 中国関連の業務では、2007年から2014年まで日本法圓坂律師事務所大連代表処第3代首席代表を務めました。その間、在瀋陽日本国総領事館在大連領事事務所や大連日本商工会、中国に進出している日系企業の顧問を務めました。日本・中国の経済交流を法務面から支える活動を心掛けています。中国律師との提携も長く、日系企業にとって理解の難しい中国法の解釈について、日々情報をアップデートしています。

著書
「北東アジアに激変の兆し-中・朝・ロ国境を行く-」((社)大阪能率協会・アジア中国事業支援室編-共著)

セミナー・講演
2012年3月(京都) 株式会社京都銀行主催
   テーマ「中国・現地法人の企業再編とその問題点」
2012年10月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「中国進出企業でのトラブル対策~中国人幹部の解任や合弁の解消など」
2012年11月(大阪) 一般社団法人日中経済貿易センター主催
   テーマ「中国現地法人の再編・中国国内移転とその問題点」
2013年11月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「現地法人のかかえる様々なリスクへの対応その1」
       -新外国人出入国管理条例、商標法改正をふまえて-
2014年6月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「現地法人のかかえる様々なリスクへの対応その2」
       -①契約等日常的なリスク対応と②撤退等非常時を想定したリスク対応-
2015年8月(大連) コンシェルジュ20周年記念セミナー
   テーマ「新しい時代を切り拓くための法律講座」
       -中国・大連と共に成長・発展することを目指して-
2015年9月(大阪) 広東広信君達法律事務所との共催セミナー
   テーマ「中国事業にかかわる問題点とその解決策」
       -日本人弁護士の視点で語る中国での清算、撤退に関する近時の動向-
2016年2月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「現地法人のかかえる様々なリスクへの対応その3」
       -①新環境保護法 ②撤退・労務紛争に関する近時の状況-
2017年4月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「日中両国の弁護士が語る最新の法律実務」
       -①外商投資を巡る新たな動き、②撤退に関する新たな動向・企業
        破産法を巡る最新の実務、③日系企業の役に立つ最近の実例紹介-
2018年3月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「日中両国の弁護士が語る最新の法律実務」
       -環境に関する法律問題と近時の実務動向-
2020年9月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「日中両国の弁護士が教える新型コロナ影響下の人事・労務のポイント」
2021年2月(大阪) WAOJE大阪主催
   テーマ「中国ビジネスのいま・これから」
2021年5月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「日中両国の弁護士が語る新型コロナのワクチン接種に対する企業対応のポイント」
2022年5月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「日中両国の弁護士が教える個人情報保護法のポイント」
2023年4月(大阪) 華人研セミナー
   テーマ「中国の環境重視政策とその余波」
2023年5月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「日中両国の弁護士が教える事業再編・出口戦略のポイント」

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