一般2009年04月01日 メラミン混入粉ミルク事件 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:稲田堅太郎
昨年の中国では餃子中毒事件やメラミン混入粉ミルク事件など食の安全に関する事件が大きな問題となりました。
日本で発生した餃子中毒事件は当初、日中両国のいずれに原因があるのか問題となりましたが、その後、中国国内中毒事件が発生したことから中国内の問題となり、中国の捜査当局も本気になって捜査をすすめているようですが、未だに真相解明に至っておりません。
メラミン混入粉ミルク事件の方は昨年3月頃から三鹿集団と他の一部メーカーの粉ミルクがメラミンに汚染され、各地で乳幼児が発病する状況が次々に発生し、最終的には中国全土で29万人余の乳幼児に泌尿器の異常がみつかり、その内6人の死亡が確認されるという大事件となりました。
事態を重くみた中国共産党中央委員会と国務院は国家品質監督検査検疫総局に緊急特別検査を実施させるなど、乳製品の安全を保証するため、メラミンの検出された22社69荷口の製品について売り場からの即刻撤去、封印、回収、焼却を行い、関係企業の全面調査と原因究明、責任追及と法に従った厳重処分の実施、さらに全ての乳製品生産企業に対し担当者を駐在させて監督管理を行い、工場の仕入れ原料乳と各生産工程に対する厳格な監督検査を実施し出荷製品の一つ一つを厳格に検査して品質と安全性を保証する体制をととのえました。併せて衛生官庁は各医療機関に対してメラミンを含む粉ミルクによる発症患者の選別診断を一層確認するように指示を出し乳幼児の検査と病気の治療に全力をあげて取組む姿勢を示しています。
被害者に対する賠償について、三鹿集団など責任のある企業22社は確認された患者に対して現金による賠償支払を表明し、11億元余りの資金を拠出して、その内2億元を医療賠償基金の設立に充て、今後、後遺症が出た場合の治療費に対応する他、9億元を患者に対する賠償金に充てるとし、賠償基準を統一、死亡の場合は20万元、重傷は3万元、普通の症状は2000元とし、昨年末から河北、甘粛、山東、河南、山西、江西等の各省で賠償金の支払が始まりました。しかしながら被害者の家族の一部は責任のある企業の賠償案を拒否し、本年1月16日には200人余りの被害者が法律支援団体に依頼をして最高人民法院に対して共同で民事賠償請求訴訟を提起し、22社に対して3600万元の賠償を要求しています。
加害企業の三鹿集団は中国の有名な乳製品企業であり、そのブランド価値は一時、149億700万元に達していたにもかかわらず昨年のメラミン混入の粉ミルク事件で経営危機に陥り、深刻な債務超過により、河北省石家荘市中級人民法院は本年2月12日に同社の破産を正式に宣告しました。それに先立つ1月22日には同法院など4ヶ所の末端裁判所において、同集団の元会長ら21名の被告人に対して、死刑、執行猶予付き死刑、無期懲役、などの厳しい判決が言渡されています。
「三鹿事件」等で中国の食品安全監督管理のさまざまな不備が明らかになったため、国務院では「乳品品質安全監督管理条例」を審議して採決し、全人代常務委員会では本年2月28日に新たに「食品安全法」を可決制定して、今回のような重大な食品安全事故を法制度の面から予防し処分を行うための体制を強化しました。同法は食品安全のリスク監視と評価、食品安全上の事故処理、監督管理、法的責任などの10章104条から構成されています。同法の施行によって中国食品の安全性が確保されることを期待したいものです。
(2009年3月執筆)
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