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一般2016年12月01日 訴訟委任状に公証人の認証が必要か? 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:伊藤朝日太郎

 弁護士は、依頼者の代理人として裁判所に書類を提出し、弁論を行うのが仕事である。その際、弁護士が依頼者からきちんと委任を受けていることを示すために、依頼者の印鑑を押した委任状を裁判所に提出しなければならない。
 意外に思われるかもしれないが、日本の裁判所に委任状を出す場合、依頼者の印鑑は実印でなくてもよい(三文判でもよい)のが通常である。印鑑証明の添付もいらない。また、印鑑を使う習慣のない外国人が依頼者である場合、印鑑の代わりにサインをいただくことがあるが、それでも受理してくれることが多い。
 ところが、中国では全然扱いが違うようだ。以前、日本人の依頼者が中国で裁判をすることになった。現地の弁護士に事件を依頼したのだが、委任状に必ず日本の公証人の認証をもらってほしいと言われ、一瞬驚いた。
 しかしよく考えてみれば、日本の民事訴訟規則23条でも、「①訴訟代理人の権限は、書面で証明しなければならない。②前項の書面が私文書であるときは、裁判所は、公証人その他の認証の権限を有する公務員の認証を受けるべきことを訴訟代理人に命ずることができる。」となっている。制度上は委任状に公証人の認証を要求されても文句は言えないのだが、日本の裁判所があえてそこまで求めないだけの話である。
 偽物の代理人が法廷に来たのでは正しい裁判などできるわけがないから、本来、「訴訟委任状に三文判しか押されていない」というのは、危険極まりないことだ。中国での取り扱いのほうが、むしろ理にかなっている。日本の裁判所は、「弁護士さんが架空の委任状を持ってくるわけがない」という厚い信頼のもとに、現在の運用をしているのだろう。日本の法実務は、基本的に性善説によって運営されているように思える。
 これに対して、中国の裁判所は性悪説で動いており、「委任状なんていくらでも偽造できるので公証人の認証のない委任状など論外だ」ということになるのではないか。
 なお中国の裁判所に対しては、日本の公証人の署名が本物であることも証明しなければならない。そのため、中国の裁判所に委任状を出す場合、公証人の署名捺印のほかに(東京の公証人に依頼する場合は)「上記署名は、東京法務局所属公証人の署名に相違ないものであり、かつ、その押印は真実のものであることを証明する」という東京法務局長の公印および、日本外務省担当官の公印が必要になる(もっとも公証役場に事前に頼んでおけば、①公証人、②東京法務局長、③外務省担当官のハンコをセットで押してくれる)。さらに、中国大使館領事部に、日本外務省担当官の公印が本物であることを認証してもらい、ようやくスタンプラリーが完了する。
 外国の裁判所が相手の場合、委任状1つ出すだけでも、結構な労力がかかる。

(2016年11月執筆)

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