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一般2009年03月04日 大連市の公証人役場 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:菅原哲朗

1 大連・長春の旅
 海外ツアーでは小さなトラブルはつきものだが、日本法円坂法律事務所大連代表処(大連日本法律事務所)主席代表の弁護士中島宏治さんを団長に、2008年10月下旬に1週間の旅程で大連・長春を巡る旅は、多くの中国人律師との交流会も事故無く終了した。
 中国の旅はいつも新鮮で、特に大連市と長春市での二人の古い中国人律師(老朋友)との出会いがあった。長春の大華銘仁律師事務所趙大華律師とは、2004年冬季アジア大会に向けてスポーツ法の講演をして以来4年半振りに会った。趙律師は前の雰囲気と全く変わらず、東北各省の弁護士ネットワークから、さらに東北アジア各国の弁護士のネットワークを創りたいと気宇壮大に語っていた。
 今回は、中国出張に来ていた東京の「中国ビジネス交流会」(CBK)会員企業の社長が大連日本法律事務所に顧客とともに偶然立ち寄る、米国サブプライムローン金融破綻に発するグローバルな為替レートの乱高下、航空機内への酒など液体物の持ち込み制限への対処など様々な土産話も出来て楽しいものだった。

2 世間は狭い。
 大連日本法律事務所は2000年7月に遼寧省大連市で開設したが、約10年前の当時、提携すべき相手であったG法律事務所の亡F律師の昔のパートナーS弁護士と、大連市公証処で偶然出会った。
 私は日本での中国案件処理のため公証人の公正証書を至急に得る必要があり、現地の有力な弁護士と待ち合わせをした。事前の紹介にもかかわらずS女史の顔を忘れていた。大連の公証人役場(大連市公証処)は、大連中級裁判所(大連市中級人民法院)の裏手に位置し、大きな黄色の古いビルながらいつも大勢の申請人でごった返している。
 大連市公証処待合室で中国秘書と待っていると、真っ直ぐスタスタと近づき「菅原律師」ですねとS女史に問いかけられ、ハッと思い出した。慌てて名刺を交換し、当時通訳だった名古屋のRさんを知っているか、大阪の稲田弁護士も大連に一緒に来ていると話すと、S女史は嬉しそうな顔をした。間違いない、T律師事務所のパートナー弁護士S律師だ。早速ツアーメンバーと連絡を取り、夕食は久しぶりに日本料理店でS女史を囲んで10年振りに旧交を温めた。日本流に言えば若くして亡くなったF律師の霊が、東北地区に新たな人脈を広げるために我々に引き合わせてくれたのかと不思議な因縁を感じた。

3 公証制度は重要な法制度である。
 古い「公証暫定条例」にかわり、2006年3月1日施行された新しい「公証法」は総則、公証機関、公証員、公証手続、公証の効力、法的責任、付則の7章47条からなる。公証機関は営利を目的とせず、法律に基づいて公証の職責を独立して行使し、民事責任を独立して負うという性格が明確にされた。
 中国公証協会によると、中国各地に3100ヶ所以上の公証機関があり、約2万人以上の職員が勤務し、公証書の発給件数は年間約1000万件以上という(人民網 2007年2月20日報道)。
 公証書の作成は、誰でもが申請出来て手続が簡単であり、婚姻要件具備証明書(独身証明書)や留学用卒業証明書・移民公証・抵押担保公証・強制執行認諾条項付きの金銭消費貸借契約書・公証遺言書の作成など民事の各種証明書についての様々な事実証明に中国では公証人が利用される。
 中国では、印鑑登録・実印証明の制度がなく、もし将来のトラブルを予想して日本側が中国で合意した国際取引契約書の真正な成立を期するなら、中国側代表者の署名および会社印を捺印のうえ、公証人による公証を受けておけば安心だ。
 なぜなら、日本と異なり、中国「公証法」36条(*1)は、公証を覆すに足る反証がなければ、公証を得た法律行為・法的意義を有する事実・文書を民事訴訟で事実認定の根拠とすると定め、かつ中国「民事訴訟法」67条(*2)は、公証手続により証明された法律行為、事実及び書類は、これを覆すに足りる反証がない限り、民事訴訟で事実認定の根拠として使用しなければならないと定めるからである。
 つまり中国で、もし裁判になったときに立証段階で弁護士が真正な成立を証明することなく、簡便かつ確実な証拠として裁判官が採用する大きなメリットがある。

4 中国人弁護士の豪腕
 もとより公証機関が公証手続を処理するにあたっては、法律を遵守し、客観性・公正の原則を堅持しなければならない。公証法30条は申請書受理から15日以内に公証書を発行することになっているが、多忙を極める大連市の公証実務は遅れるのが当然である。
 しかし、我々としてはスピードが勝負だ。多少費用がかさんでも良いが帰国する5日以内に公証書を取得したいとの希望を、無理を承知で弁護士S律師に依頼してあった。
 地元に強い人脈のあるS女史は、大連市公証処の混雑する室内に入ると素早く知り合いの公証主任人席の側に陣取り、前の二人の会話に割り込み、パソコンを打ちながら眼前の公証手続きに忙しい公証人に、優先的に申請書を受理させて、日本人弁護士がわざわざ東京から来ている、とにかく急いで欲しいと発言し、手際よく手続きを進めた。
 結論として、なか4日、長春市から大連に戻り帰国する前日の夜ホテルフロントに公証書が届けられていた。これも権力中枢の内部人脈を活用できる中国人弁護士の豪腕の一例である。


(*1)公証法36条「公証を経た民事法律行為並びに法的意義のある事実及び文書については、事実を認定する根拠としなければならない。但し、相反する証拠があり当該公証を覆すに足りる場合を除く。」

(*2)民事訴訟法67条「法の定める手続きを経て公証証明された法律行為、法律事実及び文書については、人民法院は、事実を認定する根拠としなければならない。但し、公証証明を覆すに足りる反証がある場合は、この限りではない。」

(2009年2月執筆)

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