一般2008年08月06日 北京オリンピックと私たち 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者：川口創

　北京オリンピックが間近に迫った。しかし、チベット問題や四川省の大地震などのためか、日本国内ではどうも「オリンピックそのものを楽しもう」という空気になりきらない。　日本国内の一部マスメディアも、そういった空気に便乗してか、オリンピックに冷や水を浴びせるようなスタンスの報道も見られる。
　確かに、オリンピックは、その国の「国威掲揚」に利用されてきた事実は少なからずある。日本の東京オリンピックであっても戦後復興の象徴としての「国威掲揚」的な側面があったのは事実である。そのために、政治的な意図などが行き来してしまうからだろうか。オリンピックに対する意見の中に、どうしても政治的な主張が伴ってしまう。
　しかし、これもいつも言われることであるが、オリンピックの主役はもちろん選手たちだ。どこで開催されようとも、４年に１度の権威あるスポーツの祭典に、各人の年齢的なピークという限界を抱えながら、各人がその全力を注いで集うのである。まさに、アスリートとしての人生をかけて集い、競い合う。
　私たちは、そこで力を出し合う選手たちの姿に励まされ、涙し、そして感動をするのだ。
　出場する選手たちにとって、政治的な背景など本来関係はないはずである。
　私たちが、スポーツに感動するのは、様々な理由があるだろうが、選手が自らの体と場合によっては一定の器具等のみを頼りに、地道な努力を積み重ねた結果としての自身の持てる力を出し切る姿に、また、一定のルールと制約の下でフェアに闘いあう姿に、すがすがしさを感じるのではないだろうか。
　武器を使わず、暴力を使わず、人をルールなく傷つけることなく、そして憎悪もない。
　だからこそ、オリンピックは平和の祭典、とも言われてきたのである。
　私たちは、この平和の祭典を通して、日中に生きる個々人として、互いの理解を深め、お互いの信頼関係を高め、不必要な憎悪などをなくしていくことができないだろうか。
　オリンピックは、きっとそれぞれの個人の信頼関係を基軸とした新たな次元の日中平和、日中友好を作り上げていくきっかけにできるはずである。
　そういった意味で、私はオリンピックを前向きに捉えていきたいと思っている。そして、何よりオリンピックのなかで多くの感動が生まれ、成功裏に終わることを期待している。

（２００８年７月執筆）